第23話 初コラボ 2


『ズバリ。別れたあと面倒くさそう!』

『あ……』

 

 にっこり笑顔でズバッと言い切る茉莉花。

 それにアマリも一瞬ポカーンとなる。

 あ……あああぁぁぁ……ぁ、あるある〜〜〜〜〜〜〜!

 めっちゃわかるわ〜!

 俺も大学のパソコンサークルで、今で言うところのオタサーの姫がいたのだが、サークル内の男を取っ替え引っ替えしていたのが後々バレて――なお、俺含めた一部は機材ガチ勢だったので姫にはまったく靡かなかった――地獄を見たことがある。

 あの時のサークルの地獄のような空気。

 冷め切っていて、なんでエンジョイ勢がサークルの部屋に集まるのかがわからず、俺がうっかり「色恋で惚れた腫れたやるんだったらうちのサークルじゃなくてもよくね?」って言ったらエンジョイ勢が姫含めて誰も来なくなったことがががががが。

 金谷や嶋津からも「俺、専門学校時代に付き合ってた二人が別れてからマジでクラスの空気最悪でさぁ」「わかる。女子生徒全員彼女サイドの味方して、男子生徒は男子の味方して男女で冷戦状態になるんだよな」「そうそう。どっちも互いの悪いところとか話さないから、相手が悪いって思い込んでて……」「俺はバイト先で女子高生と男子大学生カップルがデキてたんだけど、喧嘩すると男子大学生が他のバイトに当たり散らしてさぁ」とか言っていたので割とあるあるらしい。

 そうなると、狭いコミニュティは真面目にやっている層に多大な迷惑がかかる。

 別れても別れなくても、周りに影響を及ぼす系のカップルは迷惑なんだよなぁ。

 チャット欄のコメントも「あー!」「ああ……」「わかる」「それな」「うちの職場にもいるわ」「いるいる」「迷惑だよね」という賛同の声がずらり。

 ……世の中どんだけ迷惑なカップルがいるんだ。

 

『イチャイチャして胸焼けするパターンならいいんだけど、たまに相手下げしてマウント取ってくる子もいるじゃない? こないだわたしの友達が浮気彼氏を捨てたから、部屋の片付け手伝いに行ったんだけど、その彼氏マジでゴミでねぇ。職場恋愛だったんだけど、喧嘩すると職場の部下にめちゃくちゃ当たり散らしてたんだって』

 

 クソだぁ。

 

『しかもその当たり散らす部下の対象は女の子ばっかり。困った女の子が友達に相談して発覚。問い詰めたら逆ギレ。しかも職場で逆ギレしてわたしの友達を殴ってね、さらに上の上司が出てきてもう大変』

 

 マジで大変すぎない!?

 そんなに大変だったの!?

 

『友達は“仕事辞めるしかない”ってへこんでたわ。なんで殴られた方が退職するのよ、って言ったんだけど、申し訳なくて、らしいわ。職場恋愛ってそんな感じで別れたあとも色々引きずるじゃない? 箱の中での恋愛経験はわたしもないから、織星くんと甘梨さんがそうなるとは言わないし、中には結婚報告で初めて“え? 付き合ってたの!?”って思うカップルもいるけれどね?』

『そう、なんですね……ごめんなさい。私、長い間引きこもりでそういう経験もなくて知らなかったです……』

『ううん。世の中のみんながみんなそうっていうわけじゃないの。真面目にお付き合いして、周りに迷惑もかけない大人のカップルの方が圧倒的に多いわよ。それに、今までのは第三者としての意見と、職場の先輩としての意見。わたし個人の意見で言えば――あんないい男にみんなの目の前でデレデレされて愛されててめっちゃくっちゃ羨ましい! わたしも好きな人にあのくらい求められたい!』

『えっ』

 

 途端にコメントがまた流れ始める。

 どれも「それなー!」「わかるー!」「うらやまだよね」「織星リスナーですがマジ羨ましいです」「羨ましい!」「早くくっつけ」「甘梨ちゃんの気持ちが一番だよね」「女としては裏山」「草」「女としてはそうだよね」という声。

 相変わらず歯に着せぬきっぱりとした言葉に、共感するリスナー。

 おそらく今までのすべてが茉莉花の本音なんだろう。

 そして、リスナーたちも。

 

『だから結局のところ、甘梨さんがいいと思うようにするべきだと思うわ。頑張って!』

『あ、ありがとうございます……!』

 

 リスナーからも応援の言葉や激励の言葉が流れていった。

 あったけぇ世界だなあ。

 

『じゃあ、次はわたしから甘梨さんに聞きたいことがあるんだけど……』

『は、はい。なんでも聞いてください!』

『甘梨さんはあんまり外に出ないって言ってたけれど、コスメには興味ある? わたしの友達の一人に香水師がいるの。今度その子と“りゅうせいぐん☆”でコラボ商品を出さないかって、今企画してるんだけどね、もしよかったら甘梨さんも参加しない?』

『え、す、すごい! いいんですか? コスメ、私、本当に全然詳しくなくて……メイクもワイチューブの動画で見よう見まねで……自信なくて……教えてもらえるのなら嬉しいです』

『そう? じゃあ今度買い物行く?』

『行きます!』

 

 即答だよ。

 ああ、やっぱりその辺は俺ではどうにもできなかったから茉莉花が担当してくれるのなら助かるなぁ。

 

「――ん?」

 

 しみじみと二人の姉妹のようなやりとりに、兄としての力不足を感じていると事務所に人が入ってきた。

 あれは……。

 

「明星? どうかしたのか?」

「あ……し、椎名さん……」


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