第14話 織星ハルト、デビュー 1
アマリがデビューして一ヶ月。
新人バーチャルライバー甘梨リンは順調に登録者数を伸ばし、六百人を突破した。
収益化は登録者数千人、動画再生回数4000万回以上で申請可能。
目標まで半数を超えたってことである。
そして、今日は二月の新人デビュー日である。
俺はアマリを家に残してスタジオにスタンバイ。
今日デビューするのは『
そう、織星ハルトと明星ヒナタの二人だ。
アマリも昨日から新人の宣伝をしてくれたし、直前に茉莉花と夜凪が生歌でコラボして宣伝してくれた。
十八時から織星ハルト。
十八時半から明星ヒナタ。
十九時から二人の歌みたがハルトのチャンネルにあがり、二十時から公式チャンネルで二人の公式番組『スターズ・バトル!』第一回が放送される。
一週間前にチャンネルとツブヤキッターアカウントを開設してから、織星のチャンネル登録者数は四百人、明星は三百人と出だしはアマリよりも好調。
初配信の前の事前登録者数がこれほどとは……想像以上にすごい。
女性リスナーは男性リスナーより気安く登録ボタンを押してくれるので、おそらくその影響が如実に差となって現れている。
この調子だとアマリの登録者数をあっという間に追い抜くだろうな。
「よーし! 初配信、頑張るぞー! 皆さん、どうかよろしくお願いします!」
「おう! 楽しんでな!」
「頑張れ!」
収録スタジオにいるのは機材担当の俺とマネージャーの金谷。
今日が初配信ということで、不安がっていた新人にはスタッフがつきっきりでサポートする。
アマリの時と同じだ。
織星はそれほど不安そうではないような気がしたが、やはり初配信はどうしても緊張するというのでスタジオ配信することを選択。
三十分後に初配信の明星も、スタジオの隅のソファーでぶつぶつ緊張の面持ちで配信内容をチェックしている。
まあ、あの顔の相方を一人にするのは……織星でなくとも不安だよなぁ。
しかし、さすがの織星も緊張が滲んでおり笑顔がいつもより強張っていた。
パソコンの前に座り、キーボードとマウス、OBSを操作して十八時を待つ。
十、九、八、七、六、五、四、三、二、一……。
画面を待機画面にして、織星が一息吸って、吐く。
「こんばんはー! 織星ハルトといいまーす!」
元気よく挨拶して、左右に動きながら自己紹介を始めた織星。
しかし俺は、ここであることに気がつく。
慌てて無言で近づき、ミュートを解除するよう指でミュートボタンを指し示す。
織星はそれにすぐさま気づいて「あ!」と指でミュートボタンを解除した。
「やばーい! ミュートしてました! すみません! ありがとうございます!」
初手、ミュート芸。
まあ、稀によくやるよな。
チャット欄も「草」「ミュート芸人キタコレ」「可愛い許さ」「ミュート芸助かる」などとさすがに新人には心優しい対応。
改めてVtuberリスナー優しい人が多いな。
「えへへ、スタッフさんがすぐ気づいてくれた。本当にありがたい。えっと、では改めて! 初めまして! 『りゅうせいぐん☆』からデビューしました、新人バーチャルスポーツクラブジムトレーナー、織星ハルトです! バーチャル都市
キーーーーン。
真後ろで聞いていた俺と金谷が後ろにのけぞりそうになる。
気合いが入りすぎなのか、織星の声量がいつもよりも大きい。
ノイキャンはフル稼働しているが、チャット欄を見ると「鼓膜死んだ」「うるせぇ!」「草」「鼓膜ないなった」「声でっか!」「鼓膜無事死亡」「耳がァァァァァ」「音割れてて草」とものすごい勢いで流れていく。
……これで織星は声でか鼓膜殺しVtuberとしてリスナーに認識されるようになるだろうな……。
「え! うるさい!? ごめんなさい!? あれ!? 音量調節したんだけどな!?」
俺が無言で近づいて音量調節を行う。
このためにここにいるのでまあ、いいんだけど。
BGMも大きいな、この声量に合わせていたら……。
「ありがとうございます! え? どうですか? 今スタッフさんに調整してもらったんですけど、まだ大きいですか? ……大丈夫そうですか? よかったぁー!」
ススス……と後ろに戻ってくる。
しかし、なんとなくまだなにかやらかしそうな気がして、近くに待機した。
「えっとえっと、あれ、どこまで喋ったっけ? ……えーと」
ちら、と後ろを振り返ってきた織星に、ああ、テンパってんな、と察してマウスで画像を出すように指示を出す。無言でな。
そうだ、とすぐに思い出した織星は、プロフィール画像を取り出した。
「ごめんなさい、これがプロフィールです! えっとこのあと初配信の明星ヒナタと俺で『
違う、違うぞ織星。
それはプロフィールのあとだ。
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