第13話 甘梨リン、デビュー 2

 

 と、アマリがアンケートを開始する。

 困惑していたチャット欄は、いきなりアンケートで絡みができて嬉しそうに投票していく。

 アマリはそれを実況している。

 どの番号に投票しても、あみだくじの真ん中部分は隠されているのでリスナーからはどれを選んでなにになるかわからない。

 リスナーの困惑は比較的速い段階で沈静化し、すぐに面白いとばかりに投票が伸びていく。

 

「わー、ありがとう〜、みんなー。あ、ツブヤキッターで呟いてくれたの? ありがとう〜。うん、どんどん共有欄からツブヤキッターで呟いてくれると嬉しい〜。あ、配信タグもつけてくれるとエゴサしやすいです。配信タグは『#甘梨成長中』でお願いします! 投票あと三十秒です」

 

 アンケートが間もなく終了した。

 ②が65%と一番伸びている。

 アマリは練習の成果を存分に発揮して、「ありがとうございます!」と明るくリスナーたちへお礼を言う。

 そこから軽快な音楽を口遊みながら、あみだくじを色ペンで降りていく。

 

「てんててーん……っと、いうわけで、『ホラーゲーム耐久配信』になりました! ぱちぱち!」

 

 手を叩くアマリに、チャット欄もフランスパンや手を叩く絵文字が流れる。

 ホラーゲームは実際にプレイできない層から人気の配信ジャンルだ。

 アマリもそれほど得意ではなさそうだが、悲鳴を聴きにくるリスナーもいるしなぁ。

 

「『ホラーゲームなにやるの?』……バイ○ハザー○やります!」

 

 え、あれ結構アクションゲーだけど大丈夫?

 心配する俺をよそにアマリは「アクション要素強いから、心配なんだけど……みんな応援してくださいね。あ、ネタバレはなしで。ホラーゲームやったことないから、めちゃくちゃ怖いんですけど……みんなが見ててくれたら頑張れると思うんだ」とやや強張った顔と声で宣言した。

 ……俺の妹……いや、甘梨リン、うちの事務所のライバーが健気で推せる……!

 

「あ、ありがとう! 私頑張るね。みんなが一緒なら頑張れる。私、私……ずっと引きこもりしてて……でも、お兄ちゃんがバーチャルワイチューバーっていう仕事を勧めてくれたから、私もなにかできるんだったらやってみたいって思って『りゅうせいぐん☆』のライバー募集に応募してみたの。だから、私、本当に社会不適合者なんだけど……今も不安でいっぱいなんだけど……こんなにたくさんの人が見に来てくれて、応援してくれるのなら、私きっとやれると思う。みんな、どうか……チャンネル登録、高評価、ツブヤキッターのフォロー、よろしくお願いします!」

 

 無言で私用アカウントでツブヤキッターフォローした。

 隣で見てた金谷も無言でツブヤキッターフォローしてる。

 まあ、俺らスタッフなので物音を立てたらダメなんだけど。

 まあ、物音を立てたところでノイズキャンセラーが消してくれると思うけどな。

 

「あ、ありがとう、みんな。ネットって怖いイメージだったけど、優しい人がこんなにたくさんいるんだね……嬉しい。あ、時間余っちゃったね。どうしよう。質問コーナーやろうか。なんでも聞いて。答えられることなら答えるから」

 

 と言って、残り時間を質問コーナーにすることにしたらしい。

 一応初配信は三十分から一時間のどちらか選んでもらった。

 アマリは「多分あんまりたくさん喋れない」と言うので三十分コース。

 時間制限を設けたのはスタジオの使用時間の関係である。

 個人勢ライバーはあまり初配信に時間制限を設ける者はいないので、初配信でも一時間、二時間喋っていたり、なんならそのまま長時間ゲーム実況を始める者もいる。

 企業勢の中にもそうやってリスナーを引っ張ってこようという者はもちろんいるけれど、五年以上俺以外とろくに話してこなかったアマリには負担が大きいと思って初配信は三十分にしてもらったのだが……まさかの耐久かぁ。

 龍○散ダイレクト買って帰ろう。

 コンビニに売ってるかな?

 いや、薬局か。確実に買うなら薬局か。

 

「えーと、『バーチャルワイチューバーに興味があります。私でもなれるでしょうか? どうやってなるんでしょうか?』――えっと、私の場合はお兄ちゃんが『りゅうせいぐん☆』のスタッフでした。募集中なんだけど、働いてみる? って言われて私がやるって言って色々相談して現在に至る、みたいな?」

 

 と、アマリがここまで言ったので「今だ!」と俺はカンペを出す。

 先輩たちも言っていた、『りゅうせいぐん☆』の重大発表のチャンスだ!

 

「あ! えっとですね、『りゅうせいぐん☆』ってうちの事務所の話が出たので、ここで『りゅうせいぐん☆』から大事なお知らせがあります!」

 

 ナイス繋ぎ!

 上手いぞ、アマリ!

 

「現在『りゅうせいぐん☆』では新たなVtuberを募集しております。詳しくはホームページに書いてありますので、興味のある方はぜひ私の概要欄から飛んで確認してみてくださいね。そしてそして! なんと! じゃじゃーん!」

 

 アマリの声を合図に、画面を切り替える。

 画像には『十二ヶ月連続新人デビュー!』と書いてあった。

 チャット欄がざわつく。

 流れが早くなり「マジ?」「十二ヶ月!」「事務所ガチじゃん!」「登録しました!」「すごい、楽しみ!」と驚きの声と歓迎の声が次々と。

 

「『りゅうせいぐん☆』十二ヶ月連続新人デビュー! 第一弾の一月担当は私、甘梨リンです! 来月もすごい人たちがデビューするので、『りゅうせいぐん☆』公式チャンネル、ツブヤキッターアカウントをフォローして続報をお待ちください!」

 

 ぽぽん、と通知がくる。

 音は消えているが、公式チャンネルとツブヤキッターアカウントへの登録がひっきりなしになされていた。

 想像以上の成果だ。

 アマリのチャンネル登録者数もなんと、百人が突破。

 これは、すごい!

 今までうちの事務所の新人で初配信に百人突破したのは夜凪しかいない。

 金谷と顔を見合わせる。

 流れが――勢いが来ている!



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