第8話 推しと出会う 2
「ばかばかばか! この筋肉バカ! 急になに言い出すの」
「そうですよ、織星くん! 甘梨さんは人見知りなのでやめてあげてください」
「え! そうなんですか? すみません! でも本当に可愛くて……俺、こんな……マジで人目見て『好き!』って思ったの初めてで……俺どうしたらいいんでしょうか!? 絶対諦められそうにないんですけど!」
「とりあえず落ち着け! そんなのドン引きされるに決まってるじゃん! ……えっと、ごめん。でもその、おれもこいつと付き合い長いけどこんなこと言い出したの初めてで……だからその、誰にでもこんなこと言うわけじゃないから……だからごめん」
「あ、い、い、いいえ……驚いた、だけだから……」
人見知りと言われれば、こちらも十分人見知りそうな明星がフォローに入るほどの暴走。
首根っこは流石に手が届かないので、明星が掴んだのは上着の裾だ。
金谷も間に入って織星の胸を押し返して明星を援護してくれる。
別にそこまでしなくても、と言いそうになる必死さだ。
だが、まあ、うちの妹が十八歳の未成年なのに対し、織星は二十歳と言っていた。
未成年女子に結婚を前提に交際を申し込む成人男性という字面は、確かにちょっと外聞がよろしくない。
年齢的にはたった二歳差なのでありといえば普通にありの年齢差だろうし、健康的で快活、高身長のイケメンイケボ。
直感だが、この男は茉莉花と同じくらい売れる――気がする。
初配信になにをするのかわからないし、ガワがまだできてないというからマジでただの直感なんだが。
「あの、じゃあデビューしたらぜひ絡んでください! あ、コラボもしてください! ぜひ!」
「あ、ええと……」
「うん、コラボはしてもいいんじゃないか? 新人同士、交流や絡みがあるとリスナーも喜ぶよ。ただ、鳩についての注意喚起はしておいた方がいいだろうな」
「「「はと?」」」
三人の新人の声が重なる。
おや、鳩についての説明ってまだしてなかったっけ?
「鳩っていうのは通称『鳩行為』っていう別のライバーのところにその時にまったく話題に出していないライバーの話をする行為のことだ。まあ、簡単にいうとチクり行為だな」
「それはなにがダメなの?」
「単純にマナーが悪い行為なんだ。たとえばアマリが配信中に、茉莉花の話ばかりするリスナーがいたらどう思う? 今茉莉花の話なんてしてないのに。そういうリスナーは放置するとエスカレートしていく。逆にアマリのリスナーが茉莉花のところで、アマリの名前を出したら茉莉花も嫌な気持ちになるかもしれないだろう? だからお互いに鳩を禁止にするんだよ。まあ、物は使いようで鳩行為OKな企画とかをしてリスナー同士交流させる手もある。ただリスナーはライバーに似る。リスナーの手綱はライバーがしっかり握って、リスナーの質の向上はライバーがやるべきだ。難しいところだけど、放置して他の箱に迷惑かけてトラブルになってからじゃ遅いだろう?」
と、丁寧に説明すると三人とも神妙な面持ちになる。
リスナーの躾に関しては茉莉花や大手の箱のライバーを参考にするといいよ、と言っておく。
大手のライバーは比較的初期から注意喚起をしたり、動画概要に禁止事項一覧を書いてある。
それを一読するように、と一言言うだけでも違うだろう。
ただ、大手の箱では何度か厄介リスナー大暴れによりライバーの注意喚起も虚しく「応援しているのに怒られた」という逆ギレからの炎上。
なぜかライバーが引退するという事件が数回起こっている。
新人のうちは負担が大きいかもしれないが、リスナーの制御は早くから行っておいた方がいい。
やってほしくないことは、きつめになってでもはっきりと伝えること。
それで離れるリスナーがいても、炎上が回避できるのなら安いものだ。
ライバー生命を一日でも延ばすために、心を鬼にして伝えることは伝えるように、と言っておく。
「特にガチ恋勢は仲間のライバーのところに鳩して、他のライバー下げをしたりするからそういう売り方をするつもりがない場合はちゃんと言っておいた方がいいぞ。茉莉花なんて『ガチ恋勢死ね』って笑顔で言ってるからな」
「強……」
「いえいえ、そのくらい強く言って構いません。褒められるのは嬉しいですが、そのために同僚をこき下ろすようなリスナーを放置するというライバーは、うちの事務所にはいりません」
金谷がきっぱりと言い切る。
本当にそれ。
「同僚……」
「そうだぞ。同じ事務所の仲間だ。アマリと、それからこの二人……織星くんと明星くんは」
「仲間……そっか……そうだね。私のことを好きって言ってくれては人が、他の人のチャンネルでその人の悪口言ってたら嫌……だね」
「ああ、だろう? 逆も嫌だろう。他のライバーのリスナーが、アマリを悪く言うの。そのライバーのことも嫌な印象になるだろう?」
「うん」
だから鳩は厄介なのだ。
マジで鳩行為OKの企画の時くらいにしておいてほしい。
まあ、「その人が私の話題を出したら名前出してもOK」と言っているライバーも多いので、完全禁止にするかどうかはアマリの判断に任せる。
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