第十二話 王城攻略作戦
Chapter.35 死亡フラグの男
「あ、あ、あー。マイクテストマイクテスト。ちゃんと記録出来てるかな」
「何してんの?」
「せっかくだから記録として映像撮ろうかと……今日で見納めになるかもしれないしさ」
朝。作戦に必要なものを入れたパンパンのリュックを背負い、王都内部へ出たところ。
僕がおもむろに構えたビデオカメラに、怪訝そうな表情をした北斗さんがそう言いながら梯子を上がる。
今日はいささか曇り空な天気。ついでにレンズがやや結露気味。
服の裾で拭いながら、よしと頷いて覗き込んでは。
「えー、僕は南田優斗です。みんなも自己紹介する?」
「するぅ……あたし。北斗玲奈」
きゃぴーんとしたウィンクとピースだ。次に、東雲さんへカメラを向ける。
「え、えっと、私は東雲美幸です。みんなと同じ高校生です」
映るのは照れた姿。もじもじとして、前髪をいじるような東雲さんをついつい愛おしく思ってしまいながら、誤魔化すように僕は咳き込む。
「やめろよ」
「ノリ悪いなあ西條くんは」
「お前テンション高すぎるだろ……」
朝に弱い西條くんは、僕が向けたカメラのレンズを鬱陶しそうに手で塞ごうとしてきていた。僕は肩をすくめ、西條くんの自己紹介を諦めることにする。
でもしっかりその姿は撮りましたから。みんなが映像に残ることに、ついついにんまりとしてしまいながら、今度は集団で自撮りをするようにビデオカメラを高く掲げた。
張り切って僕は口にする。
「ちょっとこれから、世界を救ってきます」
ピースサイン。ノリの良い北斗さんと一緒にして、照れ屋な二人が気まずそうにする絵がビデオカメラに撮れていた。
☆
「――ここはグロウシアっていう国らしい。僕らのいる地球にはない国で、生憎と僕らは全盛期の姿を知らないけど……ほら、いまこうなってて」
妙な気分だ。カメラマンとしてただの自分のエゴだけど、この異世界のさまを記録する。
どこかに見せるわけじゃないし、残さなくてもいいのかもしれないけど。
「神様はいます。地球にあるようなスゴい人って感じじゃなくて、ちんちくりんな、ペットみたいな人? うーん、神様なんだけど」
廃墟。廃墟。廃墟。廃墟。
荒れ果てた姿が映像に残る。そこを歩くのはどこか朗らかな僕たち四人で、その対比が妙に浮いて見えてくる。西條くんが小石を蹴飛ばすのを見る。
僕は光景を映しながら語る。
「僕たちが出会えた現地民はたった二人だけでした。クゥリ……クゥリナンという名前の男の子と、トルハっていう女の子。二十年前にこの異世界は、この形になったらしいんだけど、二人は僕たちよりずっと小さな子どもでした」
地下シェルターで生まれたのだろう。
考えるだに残酷だけど、尊まれて生まれた魂であることも確かだ。
「すごく、いい子です。マックを奢ってあげたい」
「神様に頼めば買えるんじゃない?」
「あー……確かに? 検討してみよう」
現代の美味しいジャンクフードってものを、彼に食べさせてあげたいと思った。
洋服を買ってあげたいと思った。暖かいベッドでぬくぬくと寝てもらって、どれだけ太ってくれてもいいから、栄養をたくさん取って、西條くんより大きくて立派な男の子に成長して。
僕たちの世界には連れていけない分、言葉には出来ない身勝手な思いを、ついつい抱いてしまうばかりだ。
「この世界に広まった汚染は、悪魔召喚の影響だそうです」
その真相は、東雲さんの文献調査と、神様との問答のなかで辿り着いた。
災厄の四人。悪魔宗教。神様の言った、『見過ごせぬほどの冒涜』というのは、そんな迷信紛いの集団魔法により起こる。結果として、数えきれぬほどの悪魔が世界中に飛散し、汚染を振り撒いて大地を荒らした。水を腐らせ、植物に毒性を付与し、動物を魔物に変質させ、人を食い荒らし、都市を破壊した。
その悪魔たちは神様が行使した浄化魔法によって幸いにも滅され、残す汚染は動植物のみと考えられていた。
「ま、会ってみなきゃ分からないよね」
西條くんはそんな良いものじゃないと首を振る。好奇心と、不安が半分だ。
王都にいる悪魔。きっとそれは、僕らにとってのラスボスなんだろう。
「なにか一言残しとく?」
「イヤよ。そんな、いかにも死亡フラグ〜みたいな真似。バッカみたい」
「そうかな」
まあでも、確かに。
一度足を止めて立ち止まり、冷静になって考えてみると、今日の僕の行動は全てそれっぽいようなことばかりだった。
………………………………………………………………………………………縁起でもないな。
「あーはは……」
途端に恥ずかしくなって、いそいそとビデオカメラをしまいながら。
三人の嘆息に僕は肩身が狭いです。
☆
王城は貴族街のなかほどに構え、その三分の一のスペースを敷地とする巨大な建築物だ。
立ち並ぶ豪華絢爛な白亜の屋敷を超えていった先、突如として十メートル以上のゴツゴツとした石積みの壁が立ちはだかり、その四方には防壁塔を構えて壁と壁を繋いでいる。
アーチ門には本来であれば落とし格子があったはずで、許可のない他所からの侵入を阻んでいたのかもしれないが、生憎と破壊されていた。
なかに入るのは容易いだろう。
「怖い……」
東雲さんが、身を寄せるようにして小さな声で呟いた。反射的に僕は胸を張って頼り甲斐を演出する。
そうだ、城門は、王都の正門とは比べ物にならないほどの魔物がぎゅうぎゅう詰めのようにいる。とても突破出来るとは思えない。
「西條くんはどうやって……」
「あの塔に穴があるだろ。たぶん銃だか弓だか覗かせるやつが」
あそこから侵入したとでも言うのだろうか。いくらゴツゴツとした石積みと言えど、高さは五メートル以上はあるんですよ。無茶だよ。なんで登れたんだよ。
思った以上に逞しい潜入方法に、ぽかーんと口を開けてしまいつつ。
「とりあえず、準備をしようか」
ここまでは予想の範疇。一番近い屋敷のなかに入り、僕らは準備を進めていく。
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