Chapter.31 源泉

 と、言うことで。

 図書館の探索は東雲さんが請け負ってくれたので、僕と北斗さんは別の施設の探索をする流れになった。

 本を探すにも僕らは目星も付かないしね。


 対して、東雲さんは神様やクゥリから、大体の目星になるような言語表記を教わってきたのだそうだ。

 そしてそれを当てにいくつかの書籍を持ち帰るつもり。


 なので、東雲さんとはここでお別れということになる。再会はシェルターでかな。

 あと二件の施設は僕らで調べて、今日の任務は一旦終いだ。


「ねえねえ南田! あそこ行きたいんだけど!」

「行きません」


 遊園地でシンデレラ城でも見つけたかのようなテンションでバシバシと背中を叩いてくる北斗さんを、ジト目になって引き摺っていく。


「ぶーぶー」

「ぶーぶーじゃない」


 ズルズルと。むくれる北斗さんは珍しく機嫌がいいようだ。図書館での作戦が上手くいったのもあるのかな、僕も、若干浮き足立ってしまっているような気がするので、気を引き締めなきゃいけないと叱咤する。


 詰めが甘い、なんてことは、避けなきゃいけないことだった。


「お城になんか、聖水ないと思うし」


 巨大で雄大なグロウシアの王城を尻目にして。

 そんなこともあり、目指した先は東部、工場地帯の方。施設としての目的地は、源泉温泉が湧き出ていたという大衆浴場スポットだ。


「温泉入りたーい」

「無理じゃないかな……」


 案の定というか崩落気味で、玄関扉は開いたままだし、そのすぐ真横の壁にはどでかい風穴が空いているし。

 たぶん、あそこ更衣室じゃないか? 筒抜けすぎる。


「気を付けて探すよ」


 天井からパラパラと粉が落ちてくることもあり、注意しながらなかへと入る。図書館が魔物の怖さならこっちは崩落の怖さだ。下手に揺らしてしまわないように、慎重に動く。


 施設の中央には絢爛な作りをした、巨大な浴槽があった。陽の光が綺麗に入り込みそうな位置に割れたステンドグラスの跡があり、きっと、全盛期は煌びやかな浴場だったのだろうと。


「源泉はいまでも出てるけど……」


 そして、一番の問題点。

 巨大浴槽は天井の一部の陥没により、瓦礫の隙間から湧き出るお湯を見るのが関の山であった。足場はやや浸水しており、とても聖水とは思えないし、掬うにも不純物が混ざりすぎている……。


「一番聖水の可能性を感じてたんだけどな……」


 これじゃあダメだ。


「外に出よっか」

「はーい」


 僕たちは急いで退出した。

 聖水が、目立つような、それっぽい場所にあるとは限らない。以前東雲さんと探索している時にも話したけれど、王都にあるという聖水はいったいどこに眠っているのか。


 神様が『残りの汚染を浄化出来る』と言うくらいなのだからきっとその聖水は泉のようにあるはずで、コップや水溜りなんて小さなものではないだろうと僕らは考えることにした。


 だけどこういう場所ですら発見が出来ないとなってしまうと、厳しいものはある。

 空回りし続けるような気分だ。やはり、民家を探索するべきか。


「とりあえず次は教会のほうに向かうよ」

「移動ばっかで疲れたー」


 僕もそろそろ限界だ。中央広場を中心としても、右に左に大きく移動してるわけだから、歩きっぱなしで疲れは溜まる。


 次に目指す教会はちょうどこの大衆浴場からの帰路で、軽く立ち寄れるだろうけどね。


 教会。そこは、正門に近い位置。住宅街の方の大通り沿いに構えた敷地に、十字架とステンドグラスの嵌め込まれた、神様を信仰する大きな屋敷。

 隣接した修道院には行き場のないホームレスや孤児、それから、戸籍不明の四人の男女まで受け入れるような部屋が用意されていた。


 当時、グロウシアに来たばかりの先代は、最初の二週間をそこで過ごした。


「……………っ、これは、ひどいな……」


 二〇分ほど歩き、遠目でありながらもその凄惨な現場を見た。


「だめじゃん……」


 その教会があったと思しきその場所は、跡地と呼ぶのが相応しいほど、瓦礫の山に処理されていた。

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