Chapter.32 帰還

 それから。

 あっさりと経った三日間は、何の収穫もないままに過ぎ去っている。


 異世界転移してから十日だ。

 現実世界に換算して四時間、あっちの修学旅行は夕方にもなってしまったろうか。


 大型施設は軒並みハズレで、民家のほうは順調に探索を広げていっているけれど、そうそう情報はもう出てこない。東雲さんは図書館から持ち帰った書物を熱心に読んでくれていて、僕らも頑張らなきゃとは思うんだけど……。


 西條くんは、まだ帰ってきていなかった。


「行き詰まった」


 昼寝する北斗さんをよそにため息を吐く。この時間も惜しい。頭を抱える暇なんてないと、この間にも、探索は進めていくべきなんだろうが……。


「ユウト? 平気?」

「うん……うん、大丈夫」


 クゥリを心配させてしまって、僕は力なく笑顔を浮かべる。もう一度ほっと息を吐く。

 そろそろ帰りたい。この世界に対する慣れよりも、消耗のほうが大きくなってきた。

 これは焦りだ。妙に心臓がうるさくて、集中出来ていないことが分かる。


「これ……」


 ふと、東雲さんが、神様を抱えて読み解きながらそんな明るい声を上げた。

 目が合う。同時に神様が言う。


『死んだな』

「え?」

『来るぞ』


 ハッとした。傍らにいる北斗さんをバシバシと叩き起こし、僕らは慌てるように立ち上がって、そうして一度――まばたきする。

 一つの人影がフッと落ちる。


「西條くん!」


 息が荒い。着地し、胸元をぎゅっと握り締めながら瞳孔の開いた目で一点を見つめる西條くんを、案じるように近寄って手を回す。


「……っ……」

「だっ、大丈夫……?」


 東雲さんが心配そうに言った。


「た、大河アンタ……」


 寝起きでありながら北斗さんも、気を動転とさせながら言う。

 僕は西條くんの背中をさすり、落ち着いてくれるのを待ちながら。


「チッ」


 舌打ちをした。見渡した彼は神様を見つけると、ズンズンと近寄り右手で鷲掴みにする。

 そして、啖呵を切るようにこう続ける。


「どこが魔物だふざけんじゃねえぞクソ神!」

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