第十話 聖水の在処
Chapter.29 三人で行動
……――翌日。
クゥリにも一通り説明を済ませて、これからは神様の監督をクゥリに任せることにした。
快く引き受けてくれたクゥリに感謝しつつ、僕たちは三人で王都に出ることにする。
探索出来ている範囲は既に北側、正門のある商店街側まで踏み込んでおり、住宅街は終わったところ。
今日中には以前西條くんと二人で行った中央広場にも辿り着くだろう。
順調に探索は進んでいるが、正門は二匹の魔物が門番のように待ち構えていた場所だ。そして中央広場から正門まで一直線の大通りがあるため、魔物にはいままで以上に注意をしていく必要がある。
とはいえ本日はまた少し打って変わり、大型施設を優先して回ることにした。しらみ潰しも続けて行きたいんだけど、商店街に差し掛かるところで一度切り上げて、先に目星のある場所を重点的に見ていきたいと思ったからだ。
「前、二人に撮って来てもらった案内看板の写真あると思うんだけど……それをね? この前クゥリくんに聞いたんだ」
「ありがとう、東雲さん」
僕はスマホを開いて画像を見せる。う、電池もそろそろないみたいだ……。
相変わらず読めない文字で書かれている看板の画像を見る。中央広場を中心として、王都の内部構造を示す地図には、いくつかの公共施設らしい注釈が付いている。
東雲さんは画像のなかから拡大して、一つ一つ指し示しながら僕に説明してくれた。
「国立の建物だけが書いてあるみたいなんだけど、ここが教会とか修道院がある場所なのかな、その少し離れた大通り沿いに公共の源泉温泉があるらしくて、図書館が少し離れたこの場所にあるって」
位置関係は北の正門から、住宅街のある西側に修道院。中央広場から向かって東側に大衆浴場があるらしく、その裏はすぐ工場などが並ぶんだそうだ。図書館は南側、正門から見ると奥まった、お城や貴族街などの手前に位置しているらしい。
とすると僕たちの現在地に一番近いのは修道院なんだけど、東雲さんは図書館に興味があるみたいで、先にそちらを目指して向かう。
「もうあの鳥見ないわね」
日差しに眉根を潜めながら、空を眺めていた北斗さんが言った。
貴族街、とするほうへは初めて行く。今までの街並みは、基本的に木材と漆喰を使用した建築様式だったのだけれど、中央広場からお城のほうへ向かっていけばその景観はガラリと変わっていった。
石造だ。鉄製の柵で家が一軒一軒敷地というものを持つようになり、ひしめき合った集合住宅のようなものではなくなる。街並みの印象も変わり、街灯までおしゃれな意匠が施されるようになっていた。
とはいえ、破壊されている箇所がより目立ちやすくもあり、神聖みというのは薄れてしまっている気もする。
「ここが、図書館……」
壮観な建物だ。宮殿みたいだなと思う。被害はあまりないようで、扉も閉まった状態だった。僕は代表して慎重に扉に手をかけ、ぐっと踏ん張って開けようとする。
「お、も……」
「ちょ、南田しっ!」
「え?」
「なんかいる……!」
と、思わず扉を引いて開けようとする手が止まった。パッと手を離し、その隙間から見えたという謎の影を僕も探そうとする。
北斗さんがそのすぐ隣で、耳がキーンとしてくるようなひそひそ声で僕に訴えかけてくる。
「ほんとだって……! なんか動いてたよ奥の方……!」
てしてし背中を打たれながら。
せめてなかには入りたいところだ。しばらく様子を見守り、入り口の近くには異常がないことを確認してから、再度慎重に扉を開けて頭だけで覗き込む。
エントランス、絵画のようなものが壁に飾られ、抽象的なオブジェクトとソファが置かれている受付のような空間には、奥の図書室へ繋がる扉のない出入り口が左右に一つずつ。左手の壁には回廊へ出る扉もある。
「気をつけてね……」
先行は僕。中腰で、あまり物音を立てない歩み方でエントランスの奥を覗く。この世界の図書館というものは、とてもそわそわする不思議な雰囲気があった。
印象としては縦に長い建物だ。本棚は両隣の壁沿いにずらりと立ち並び、中央のスペースには横二列のテーブルが縦に十何席か整列する。吹き抜けの二階には更に多くの蔵書を誇り、仄暗く重たい空気は灯りが付いていないからか。
「サイゼリヤっぽい」
「確かにどことなく似てるけどね?」
ぽつりと呟く北斗さんに思わず笑いそうになりながら。
「……あそこにいる」
視線を巡らす。
どうやら一匹だけらしい。東雲さんが指し示してくれた、奥側。本棚やテーブルの物陰越しにはなるけれど、そこには正門で見たような魔物より一回り小さくてずんぐりとした姿の個体がいる。あれはいったいどんな魔物だ……?
「なんとかしたいね」
魔物の存在が判明し、このままでは探索が出来ない。外に連れ出すと逆に今度は僕たちが立ち往生してしまうので、どこか、良さそうな部屋に閉じ込めてしまうのがいいだろうか。
幸い一匹だけだから、やりようはある気がしている。
「こっちは?」
ガチャリと慎重に開けたエントランス左手の扉。覗くと、図書室の外周を覆うようなL字の回廊であることが分かる。突き当たりを右に曲がれば扉がいくつかあって、それらはいずれも図書室のなかに繋がる。
ということはうまく使えば、このL字の回廊に魔物一匹を閉じ込めることが出来るかもしれない。
「よし、考えよう」
ミッション開始。名付けて、図書室制圧作戦だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます