第八話 ローテーション

Chapter.23 郊外探索

 朝。焚き火跡のある部屋に僕らは集合する。


「おはよう」


 聖水探索に先駆けてこれからの方針を決める。仕事内容を公平に分担していくことにした。


 その役割としては、王都の散策と食料調達。安全確保。この三点に分けられる。


 二:一:一でローテーションをしていくのだ。

 一番しんどい作業になるのは王都の散策、つまり聖水探索になると思っている。梯子を使って王都内部に存在する水場を調査する。当てもないのに見落としは厳禁だから、しらみ潰しのような作業がこれ。

 二人の協力体制で効率的に進めていきたいと考えている。


 その次、食料調達。もとい、郊外の探索をする係。主に僕ら四人分の食糧調達を担当してもらうほか、焚き火の資材確保などをしてもらう。毎日必要な作業でもないので、適宜探索組のサポートへ向かってもらったりするつもりだ。


 そして何気に一番大切、安全確保。これは休みの日も意味している。安全確保の理由としては、例えば不慮の事態があった時、僕らは神様の元に残機を消費して転送される。だから安全確保というのは、神様と拠点で待機してもらう係だ。

 魔物もいないわけじゃないしね。神様は一人にさせられないし。


 これらを毎日交代するとして、聖水探索は相方を変えて二日間続けることになる。本当は担当者を固定させちゃった方が探索漏れの恐れも減るだろうとは思うんだけど、そこは四人が公平であるためにひとまずはこの形式でしていこうと決めた。

 西條くんは何も言わなかった。


「じゃーんけーん、ぽん!」


 初日は、ジャンケンで振り分ける。クゥリは当然ながら知らないようで、僕らの息の合ったやり取りを興味深そうに見つめていた。


 そして。

 今日は西條くんと北斗さんが王都へ。僕が郊外へ。東雲さんがお留守番となった。


     ☆


 ――パカ、と地下シェルターの蓋を押し上げて、覗き込むように辺りを見渡す。


 気分はまるで泥棒みたいだ。蓋を開けるときだけ不安になりながらも、きょろきょろと見渡してみると少し楽しんでいる自分がいることにも気付く。


 少しだけ照れくさくなりつつ、問題ないと判断。身を乗り出すように地上へ出た。


 地下シェルターのなかが暗い分、思わぬ日差しの明るさに顔を険しくする。

 出入り口はしっかりと蓋を閉め、クゥリが施しているカモフラージュも丁寧に直した。


「よし、頑張るぞ」


 緊張感を捨てるように吐き出して、意気揚々と初めての単独行動を開始する。

 僕がまず目指すことにしたのは郊外の民家だ。空にしたリュックサックを背負いながら行う本日の食料調達は、とりあえず果物を集めることになるんだけど、民家を目指すのはまた別件。純粋に、使えそうな物資を探したい。


 考えられるものとしては例えば水筒とかかな。いまのところ、聖水を見つけても運搬する方法がないし。

 それからナイフも欲しい。食器は必要ないけど……そこら辺はまあ適当に。

 ひとまずはこれからの生活に、必要になりそうなものを食料調達のついでに集めていこうと考えている。

 そしてもう一つ――あった。


 これだ。

 英雄クゥリナン。叙事詩の文献。これも、持ち帰ることにする。


 空いた時間には神様に翻訳してもらおう。

 そうして、今度は空を飛ぶ魔物に急かされてしまうこともなく時間を掛けて探索したあと、僕は湖に移動した。


「広いな……」


 お風呂がないから、これからは結局北斗さんが言っていた通り水浴びで身体を綺麗にする必要がある。


「つめた……」


 一足お先に。身体をがくがくぶるぶるとさせながら、数日間の汚れを落としていく。浸かっていて思ったけれど、民家から衣服を借りるのはアリな選択かも知れないなと気付いた。ここまで色々物色させてもらっているし、今更な遠慮だったと思うけど、大胆に持っていけるものは全部持ってきてもいいだろう。衛生面は気になるけどね。


 ずっと、制服やジャージを着ているわけにもいかないし……。


 湖から上がり、タオル代わりにジャージを利用して水気を拭き取る。そのあとジャージも水洗いして、岩場に干すように広げて置いた。

 髪の毛は自然乾燥になるけど、とりあえずさっぱりとした気持ちで制服姿に戻る。


「これで魚獲ってたんだ」


 岩場の近くには木で編み込まれたお手製の罠が存在した。

 これはクゥリ、というよりも、かつての生存者が設置していた罠だそう。それを今でも利用しているらしく、昨日の夕食はこの罠のおかげとなる。


 まさか手掴みなわけ、とは思っていたけれど、罠があるなら納得だ。

 それでもあの大きな魚を持ち帰ってきた北斗さんは十分尊敬に値すると思うけど。


 残念ながら罠に掛かっている魚はいなさそうだ。

 次は森へ移動する。例の果物は荒野の方にあるので森は通過する予定なのだが、道中キノコを発見した。さすがに果物よりリスクがあるので持ち帰るつもりはないけども、きっと、クゥリに果物の安全性を教えてもらっていなかったら、残機が残っている順に片っ端から毒見することになっただろう。


 そんなの全滅待ったなしだ。ゾッとする。

 それが、異世界転移して三日目。

 聖水探索班も、収穫はないようだった。

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