Chapter.10 センチメンタル、星見てる
……――それからしばらく経った頃。
「おーい男子ちょっと来てみてよー!」
なかなか戻ってこないなと思っていたら、どうやら二人は焚き火を囲んでいたらしい。呼ばれたので、僕らは白熱していた二人対戦を切り上げてテントを出る。
神様は僕が抱えている。
「どうしたの?」
「南田の愚痴話してたらさァ、流れ星が見えてんの!」
「空、すごく綺麗だよ」
「ぐ……」
愚痴という言葉にショックを受ける。東雲さんとなにを話したんだ。
聞き逃せないワードに引っ掛かってしまいながらも、つられて僕らは夜空を見上げる。
確かにそれは澄んでいて、あまりにも綺麗な夜空だった。
「すごいな」
雲ひとつない、満天の夜空。無数に並んでいる星々が、本来は真っ暗闇であるはずの光景を、仄かに蒼く染め上げる。月は三日月。空模様は、現実世界と全く変わらないように思う。
もしかしたらなんて思って、流れ星を探したくなる夜空だ。きっと、こうやって眺めていたら、いつか絶対に見えるだろうなという予感を感じてしまうくらいの。
それくらいの、希望に満ちている空に思えた。
「さむ……」
テントから出て、そのままでいた僕が寒さを訴えていると、焚き火の近くでお尻の下にハンカチを敷いたお行儀のいい座り方をする東雲さんがとんとん、と隣に座ることを誘ってくれるから、ついつい甘えて僕は向かう。
パチパチとした焚き火の音がする。
二人で並んで座っていると、仁王立ちで暇そうにしていた西條くんも、焚き火の向かい側に一人で座っていた北斗さんも、みんなで並んで座ることになっていた。
別に惜しいとは思ってないですよ。
「……これは、ただの修学旅行じゃ、きっと体験出来なかったね」
みんなで焚き火に当たりながら、星空を見上げるような夜。ついついこんなシチュエーションに、楽しくなって僕はそう言う。
西條くん以外が頷いてくれる。
「北斗七星ってあるのかな」
「ぶっ、べ、別にいいわよ。興味ないし」
東雲さんが話題を振ると、吹き出すように笑って北斗さんが拒否を示す。イヤイヤそうに手を振る姿は慣れているようにも見えて、名前でいじられることが多かったのかな、とか、北斗さんに対する理解を深めたり。
「UFOはいねえかな」
西條くんがオカルト好きなのも、初めて知った一面だった。
「こんな世界があるんだし、UFOだってあるのかもね」
僕は友人の意見に賛同する。
今日は本当に色々なことを体験した。そして今日一日の目的というか、乗り込んだバスで目標にしていた〝みんなと仲良くなる〟ということも、不思議と達成出来ている気がする。
今まで曖昧だったりした距離感が、改めて友達といえるような距離感にまでなれたような感覚だ。少し嬉しくて、口元が弛む。
素直に嬉しいなと思った。
「流れ星かぁ。みんな何をお願いする?」
言うなればエモい。照れくさいけど、まさしく現状を表現するのに一番適していると思う。そのなかで僕は、みんなにそうやって質問する。
すっとみんなから笑顔が消えた。
僕はなるほどと想い、頷き合う。
キランと、空気を読んだ流れ星が流れた。
「「「「帰りたい(らせろ)」」」」
それに尽きる。
エモいなんかでは誤魔化せない。
いくら美化しても現状は困ります。
帰らせて。
具体的にいうと、流れ星よりも手元の神様に向けて言った。
ぎゅむぎゅむと揉む。
『………』
寝たふりしてやがる。
「はぁ……」
ため息を吐く。思わずみんなで笑い合う。
夜は暗い。スマホをちらりと見てみると、夜中の十時。修学旅行なら夜更かしだ!ってまだまだ寝ることはないだろうけど、こと異世界に至ってはすることがない。
し、慣れない移動で疲れてしまった。
テントでぐっすり眠れるかなんて不安に思ってしまうけども、身体を休めないと明日の活動に支障が出てしまう。
「そろそろ寝よっか」
「うん」
「はーい」
焚き火の消火は忘れずに。欠伸を隠せず立ち上がる。
と、じっと遠くの一点を見つめていた西條くんが、僕に声をかけた。
「優斗」
「ん?」
「確か北斗が三脚持ってきてたろ。カメラを置いておこうぜ」
「い、いいけど……電池もったいなくない?」
「何かあった時すぐ見返せるだろ」
西條くんの提案を受けて、三脚とカメラを設置する。テントの方に向けてだ。
僕的には、これで幽霊とか撮影出来てしまった時の方が確認するのが嫌なんだけど……。
頷いてくれた西條くんを見て、改めてみんなでテントのなかに戻った。
時間の流れはあまりにも早く、夢を見るような暇もなく。
――一夜が明ける。
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