第三話 致命的な結果

Chapter.9 トランプゲーム

「うし、イチ上がりぃ」

「西條くん上手いね! ずっと一位だ」

「どんだけ負けるんだっつーの!」

「まあまあ、玲奈ちゃんも上手だよ」


 楽しい。みんなでわいわいと遊ぶ。

 それを見守っていた神様が言った。


『……修学旅行か?』


 うん。

 間違いなく修学旅行だったよ。


     ☆


 異世界に来て初めて迎える夜の時間。テントも無事に張り終えて、外では焚き火が唯一の光源となっている。お腹はあまり満たされないけど、トランプゲームをみんなで遊びながらつまむお菓子はなかなかに満足度も高い。


 テントはお値段以上のクオリティだった。一万でも桁が足りなそうなものだ。


 ファミリータイプのテントだから、僕たち四人が横になって寝られるだけのスペースが十分保たれている。もちろん、男子と女子で離れられるくらいのスペースで……これは考察なんだけど、神様にとって重要なのは金額じゃなくて、僕たちにとって価値のあるものをどれくらい差し出せるかを量る指標としてあのような対価を求められたのかもしれないな、と思った。


 そうなるとまるで僕らが神様に対して不敬みたいな感じなんだけど、どっちかっていうと先代を怖がりすぎじゃなかろうかとも思っている。千円しか払ってないもん。


 神様は舐められやすいんだろうけど、それだけ神様の優しさがあるからなんじゃ、とは思った。今日泊まる場所を確保出来たのは神様のおかげで、感謝の気持ちは忘れずに持とうと思う。


 そんななかで、寝巻替わりのジャージ姿で熱中してやり続けたトランプゲームも、西條くんの十五試合十二勝(うち四連勝)という結果で幕を閉じることになった。


「はぁーあ」


 特に一番盛り上がった大富豪では、一回目こそ大富豪(イチ抜け)を取れていたものの都落ちからの大貧民負け・負け・負け続きで抜け出せずに終わった北斗さんは、深いため息を吐きながらバッと手元のカードを投げ捨てて大の字に寝転ぶ。


 東雲さんが、「あーん」と口を開ける北斗さんにグミを一粒ぽいっと餌付けしていて、どこか楽しそうなひと時を過ごしていた。


「疲れた……お風呂入りたいー」

「我慢しろよ」


 いやぁぁぁ、とジタバタとする北斗さんに西條くんが冷たい視線を送っている。僕もお風呂に入りたいけど、今は西條くんに同意することしか出来ない。


 こういう生活が続いていくかもしれないなかで、今後の死活問題の一つだ。


 特に、東雲さんに臭いとは思われたくないし……。


 例えばドラム缶とか。熱せられて、水を溜めておけるようなものがあれば、後は川水をどうにかその容器に入れて焚き火でお風呂にはなるだろう。毎日はさすがに難しいかもしれないけれど、四人で協力すればやりようはある。……ような気がする。

 問題はそのドラム缶なんだけども。


 この世界、何があって、かつ〝何が残っているのか〟まるで分からないんだよね。


 終末を迎え荒廃した世界なんて、どう生きていけばいいのか見当も付かない。


 それに時代背景も、当然ながら違うわけで。王都の外観、手の付けられていない荒野を見て、しかも異世界であることまで考えると、どうしたって現代にあるようなものはないんじゃないかと疑ってしまう。


 そうなると工夫が必要になるわけで、でも僕らはなんの事柄にも精通していないただの高校一年生なわけで……。


 不安ばっかりだ。最悪、神様が居てくれれば、またテントのようにどうにかしてくれるかもしれない。もちろんそれだって切りやすいカードではない。

 結局、僕らに差し出せる対価だっていつか限りはあるもので。それに依存は出来ない。


 だとすると、早急に聖水を見つけ出さなければならない。


 明日には辿り着けるとしても、王都のどこにあるかまでは分からない。慣れない環境で散策をして、聖水を見つけられるのかどうか……。


 問題は山積みで、だんだんゆううつにもなってくる。

 僕たちは、いつまでこの世界にいなければならないのだろうか。


「あ、あの……れ、玲奈ちゃん」

「なになに? どしたの」


 照れるようにして北斗さんに、ごにょごにょと耳打ちする東雲さんを見守る。

 その行動には少しだけ思い当たるところがあった。なるほど、と思いながら、僕は気まずい気分で目を逸らす。


 北斗さんはハッとしたような顔をすると、すぐに起き上がり、二人で手を繋いでテントを出て行った。


「す、スピードをやろうか。西條くん」

「おう」


 僕らも特に何も言わず、トランプゲームを始める。

 プライバシー、というかデリカシー。男女である以上、難しくなってくる話だ。


 早く現実世界に帰りたい。


 そして、この絶妙な空気感にも慣れなきゃいけないのが大変だ。

 死ぬほど気まずい。思春期にはつらい。


『我輩は風に当たってこよう』

「なんでだよ」


 行くなよ。変態かよ。

 ガシ、と毛玉を鷲掴んで、外に行こうとするのを止めさせる。


「スピードしよう」

「お前はお前で何キョドってんだよ」


 トランプゲームは惨敗した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る