承
第二話 生存に必要不可欠な〇〇
Chapter.5 Dear.Mom
前略。
お母さま、僕は異世界に転移しました。
どうやら貴女がこの異世界ではっちゃけすぎていたのが原因らしいです。
もしも無事に生還出来ましたら、その時はぜひ反抗期に入らせて頂こうと思います。
神様はとても胡散くさいです。いや、ものすごく胡散くさいです。というかどちらかというと、アホっぽいような匂いがします。全く威厳がありません。
ですがさすがは神様です。なんと僕らに残機三回を与えてくれました。
終末を迎え汚染された世界、通称終末世界には毒や魔物が存在するので、各々に三度は復活のチャンスを与える、ということらしいです。
フ○ッキンゴッドです。まず死なないようにしてくれよ。
これから僕たちは、この異世界を復興するために必要な聖水を探すことになります。
僕、この戦いが無事に終わったら、八つ橋を買って帰るんだ。
PS.なぜ東雲さんのお父さんと僕は同じ名前なんですか? もしかして元カレとかの名前を息子につけちゃうタイプの人だったんですか? 僕やっぱり反抗期に入っていいですか?
「……………なにしてるの?」
「あ、えっと、その……ちょっとね」
東雲さんが気にかけてくれたのでこれくらいで終わらせようと思う。
すごい。不満が止まらない。このままだとダークサイドに陥るところだった。
メッセージアプリに綴った思いの丈が、一通り纏まったので送信と押してみる。もちろんネット環境のないこの異世界から、現実世界のお母さんの元まで届くことなんてあり得なくて、再試行という文字だけがそこに小さく残された。
ため息をついて一旦止めにし、僕はスマホをリュックの中にしまう。
「大丈夫?」
「うん。ありがとう、東雲さん」
やっぱり、東雲さんは天使のような人だ。僕のことを案じてくれる彼女に満面の笑みを返し、僕は改めて班長として、みんなの指揮を取ろうと決意する。
ギャル。不良、そして清楚。まるで統一感のない、東西南北ブラザーズ。
やっぱりこの呼び方はダサい。
立ち上がった僕を見上げる視線は様々な色を帯びていて、僕はたまらないくらいに緊張した。こういう役目は苦手だなと心のなかで苦笑する。
それでも、みんなを意見を纏めるために僕は張り切って声を上げる。
「さて、みんな。色々言いたいことはあると思う、不満しかないだろうけど、それらは全部神様に八つ当たっていいから」
『さすがは先代の息子だな……』
その言い方はやめて。なんか、お母さんも昔はこんなだったのかなとか思ってすごく恥ずかしくなってくるから。
……茶々を挟まれた気がしたが、僕は堪えて話を続ける。
「帰るにしても、なんにしても、僕らの目的は聖水を見つけ出すこと、ただ一つ!」
東雲さんが頷いてくれる。西條くんは渋々そうだ。北斗さんに至っては、神様をぎゅむぎゅむと揉み込んで静かな八つ当たりを実行している。
「協力して、元の場所に帰ろう。修学旅行の続きをするために」
帰還すること。それを最優先に考えて活動していきたい。
ある程度の方針が定まったところで、見渡す限りの荒野をスタート地点にどうやって聖水を探していくか、なんだけど。
それは、神様によると目星が付いているようだった。
『聖水は、王都にあるだろう』
そこは汚染の発生源ともなった、全ての始まりの場所だそうだ。
二十年前、お母さんたちはそこにいた。僕らはその足跡を追う。
……ただ、今となっては王都も街とは思わない方がいいかもしれないね。きっとそこも破壊されていたりで、廃墟同然の場所であるとは予め覚悟しておきたい。
圏外だから使い道はないけど、スマホは現在時刻を見ることが出来る。万が一のために節約するため、一人のスマホを低電力モード、他のスマホは完全に電源を切って、常に連絡手段はある状態をキープしようという考えになった。
そして、みんなのカバンの中身も共有する。
まあ、ほとんど旅のしおりと勉強道具と遊ぶもの、になるんだけど。
なんでみんなトランプなんだ? そしてなんで誰もUNOを持ってこないんだ。
四デッキもあるよ。絶対そんなにいらない。
あと、グミやポッキー、飴をはじめとする間食系のお菓子が、集めてみるとそれなりにあった。でもこれで食い繋げることはできないから、やっぱり後々の課題は残る。
食料調達って出来るのだろうか。
京都の美味しいものが食べたかった。
「神様、王都はどこにあるんですか?」
『北の方角だ。川辺に沿って行くといい』
何にせよ、この神様は確かにひどいけど、それなりに反省もしていて協力的なのはすごくありがたいと思う。僕らも雑な扱いはしちゃっているけど、心は広いみたいだし、なんだかんだ神様だ。
……まあ、先代がそれ以上に酷すぎた、とかはあるのかもしれないけどね……。
「動くなら早い方がいいよね。みんな、移動しよっか」
「南田ァ、カメラ回しておかない? 面白いもの撮れるんじゃないの?」
そうだねと頷く。積極的に、記録は残していこう。高性能デジタルカメラだから、ズームを使えば望遠鏡の代わりにもなってくれるかも知れないし。
異世界の事を動画として残す。それはそれで胸の躍る話だ。
「帰ったら、拡散して有名人になれるじゃんね」
強かなギャルだ。まあ、ネット上に上げる上げないは一旦置いておいて、原動力になってくれるなら班長としては良きことと思います。
「電池は問題なさそうだね」
「予備のバッテリーもあるし、しばらくは平気っしょ」
よし、と、この半壊した建物から移動することを決意する。
異世界浄化の冒険は、改めてここに幕開けした。
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