第16話 怖い女子の対処法
今回の依頼にヴァンパイアの犯罪組織が関わっているなんて……もっと気を引きしめなきゃね!
お母さんは学園内で何かしてくる可能性は低いって言っていたけど、あくまで可能性の話だし。
何かあってからじゃあ遅いからね。
でもまあ、それはそれとして……。
「ん? どうしたの望乃さん。僕の顔ジッと見て」
「え⁉ あ、いえ、なんでもないです」
ぼーっとしてました、と笑って誤魔化した。
柊さんが私の“唯一”かもしれないって思うと、どうしても気になっちゃって。
今は車の中だけど、放課後の生徒会とかでもついジッと見ちゃってた。
“唯一”ってことは運命の人ってことで……でも、それ以前に私って柊さんのこと好きなのかな?
本当に“唯一”なのかどうかも分からないけれど、もしそうだとしたらすっごく大好きになっちゃうわけだよね?
私が柊さんのことを大好きに……。
うーん。嫌いではないし、最近見せてくれるようになった笑顔を見るとドキッとするけれど……。
でも異性として好きなのかって聞かれると分からないとしか言いようがない。
だいたい私、初恋もまだだし恋したらどんな風になるのかもよく分からないんだよね。
ハンターになるための訓練ばっかりしてたから分からなくて。
だから知りたくて柊さんをジッと見てしまう。
……でも、そんな私をよく思わない人たちがいたみたい。
放課後、いつものように杏くんを見送って生徒会室に向かう途中で女子の集団に呼び止められたんだ。
***
「ちょっと、話があるんだけれど」
「え?」
生徒玄関につく直前で声をかけられた。
生徒会役員の人もいれば、クラスメートの女子もいる。
他にもよく知らない子もいて、十人ほどの集団になってた。
「えっと、今じゃなきゃダメですか?」
みんなそろって怖い顔をしているし、いい予感はまったくしない。
それでも話を聞くくらいは良いんだけれど、今は柊さんの護衛に早くつかなきゃならないから。
「今じゃなきゃダメよ。いいから来なさい」
問答無用だった。
私の意見はまったく聞き入れてもらえず、囲まれた状態で連れ出されてしまう。
逃げようと思えば逃げられたけれど、今逃げたら次はもっと面倒なことになりそうな気がしたから……。
だから仕方なく、早く終わればいいなぁと空を
空には見覚えのあるコウモリが飛んでいた。
***
「あなたね、生意気なのよ!」
校舎横の少し
大きな桜の木があって、その
「護衛だか何だか知らないけれど、ずっと近くにいて常盤様が迷惑しているとは思わないの⁉」
「そうよ! 杏様だって仕方なく一緒にいるって分からないのかしら?」
「……えっと」
いきなり話が通じなさそうで何も言えない。
だって、迷惑だろうが何だろうが護衛なんだから基本近くにいなきゃいけないし。
それに杏くんの場合はむしろ初めは一緒になんていてくれなかったよね?
最近声をかけてくれるようになったけど、だからって授業中も近くにいるわけじゃないし。
そういうところをまるで見ていない感じがもうどうしようもない。
「あの、迷惑でも護衛なので近くにいないとなくて――」
通じなさそうって思ったけれど一応説明してみる。
「それが生意気だっていうの!」
でもまたしても問答無用で叫ばれた。
あー、これダメだな。
自分の意見が正しくて、それ以外は間違ってるって思いこんでる
これは本当にどうすることも出来なくて、ただ聞き流すしかないやつ。
「しかも最近あなた常盤様をずっと見ているじゃない。まさか常盤様があんたなんかを好きになるとでも思っているの?」
「っ!」
つい柊さんを見てしまっていた最近の様子を突っ込まれて、思わず息をつまらせた。
「常盤様が優しいからってつけあがるのもたいがいにしなさいよ? 常盤様はみんなに優しいの、あなただけが特別なわけじゃないんだから」
そのままくどくどとお説教のように話す生徒会役員の先輩。
私は彼女の言葉を聞き流しながらふとあることに気づいた。
そっか。もし柊さんが私の“唯一”でも、柊さんが私を好きになってくれるかは分からないんだ。
お母さんたちをずっと見てきたから、“唯一”を見つけたらあんな風にラブラブになるものだと思っていたけれど。
でも人間からしたら“唯一”なんて分からないし、好きになってくれるとは限らないんだ。
「ねえあなた聞いてるの⁉」
イライラした様子の声がしてハッとする。
聞き流していたのバレちゃったかな?
でもどっちにしろそろそろ解放して欲しいな。
「えーっと……」
正直に聞いていませんでしたなんて言ったら火に油をそそぐだけだし……。
あ、そうだ!
「あ、柊さん!」
彼女たちの後ろの方を指差して叫ぶ。
「え⁉」
「うそ⁉」
後ろめたいことをしてる自覚はあるのかな?
彼女たちはあせった様子でみんなそろって後ろを向いた。
そのスキをついて私は木の反対側に回り、トンッとジャンプして葉に隠れられるよう枝の上に乗った。
「ちょっと、いないじゃない」
私のウソがバレたときには木の葉が数枚落ち切ったところ。
「え? あの子どこ行ったの⁉」
さわぎ出す女子達を見下ろしながら、ここでやり過ごすのが一番かなって思った。
話が通じないんじゃあ聞いてる意味もないし、私が見つからなければあきらめるよね?
そうして様子を見ていると。
「君たち、こんなところでなにをしているんだい?」
本当に柊さんが現れた。
「常盤様⁉ え? いえ、その……」
「ねぇ、望乃さんを見なかったかな? 杏を見送ったらいつもはすぐに来るのに今日はなかなか来なくて」
口ごもる女子達に柊さんは私の居場所を聞いてる。
多分私がここにいるのは分かってるんだろうけど……。
「もし知っているなら教えて欲しいな。頼りにしている護衛なんだ」
「え⁉ あの、その……」
「み、見つけたらお知らせしますね!」
戸惑う中、一人の女子が声を上げてこの場を去ろうとする。
そんな彼女にならって他の子たちも離れて行った。
「そ、そうね。私たちも探してみますわ」
「ホント、どこ行っちゃったんでしょうね?」
あははうふふと笑いながら去って行くのを見て流石にあきれる。
私を連れ出したこと、柊さんに知られたくないのは分かるけれど……。
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