第2話 依頼内容

「お母さん、私のベルト知らない?」


 一階のリビングのドアを開けてすぐに聞いてみる。

 でもお母さんはソファーに一緒に座っているお父さんにべったりくっついていてから返事だ。


「んー? さあ……あ、アナタ、コーヒーおかわりいる?」

「大丈夫だよ。でも君のいれてくれるコーヒーは美味しいからまた後で頼むよ」


 お父さんはお父さんでそんなお母さんの肩を抱いて髪にキスをしている。

 ホント、いつ見ても目のやり場に困るほどラブラブなんだよね。


 何でも、お父さんはお母さんの“唯一”って呼ばれる存在なんだって。

 ヴァンパイアには一人につき一人だけ、運命の相手みたいな人がいるの。

 その相手の血はとっても美味しくて、普通よりも少ない量で満足出来るんだって。

 ヴァンパイアはそんな自分にとってただ一人の相手である“唯一”のことをすっごく好きになっちゃうんだとか。


 そういう理由だから、お父さんとお母さんのラブラブっぷりを見せつけられるのはもう諦めてる。


 でも自分の親として見たらうんざりだけれど、私も運命の相手と出会えたらいいな、とは思うんだ。

 だって、自分にとってただ一人の運命の相手なんて憧れちゃうでしょ?

 私だって恋にあこがれる普通の乙女なんだから!



「もう……買って来てこの辺りに置いたことは覚えてるんだけど……」


 私はイチャつく両親にため息をつきながらベルトを探した。

 でも、この辺りにと言ったあたりでお母さんが顔を上げて私の方を見る。


「え? そこにあったものなら捨てたわよ?」

「え⁉ 捨てた⁉」

「捨てようと思って置いておいたビニール袋の近くに置いてあるんだもの……ごめんなさいね」

「そんなぁ……」


 お母さんはすぐに自分が悪いって認めて謝ってくれたけれど、捨てられたショックは大きい。

 あのベルトを使ってクロちゃんを装備すれば絶対カッコ良かったはずなのに……。


「望乃、同じものを探して買ってあげるから元気出せ」


 怒りを通り越してひたすら落ち込む私に、お父さんが元気づけようとしてくれる。

 そのまま気をそらそうとしているのか話題を変えた。


「それより、他の準備は大丈夫か? 足りないものがあればあちらで用意してくれるとは言っていたけど、全部世話になるわけにはいかないだろう?」

「そうよね、美奈都は気にするなって言っていたけれど……」


 たよりすぎも良くないと心配する二人に、私は「大丈夫だよ」と返事をする。


「着替えとか基本的なものはお母さんもチェックしてくれたでしょ? あとは私が個人的に必要なものを入れれば良いだけだったから」


 その個人的に必要なものの中に例のベルトがあったんだけどね……。

 まあ、仕方ないか。


「じゃあ、ベルトは手に入りしだい送ってね」

「ああ」

「もちろんよ」


 しっかりと両親のうなずきを見て、私は気持ちを切りかえた。


***


 そして、四月一日。

 私は緊張しながら常盤邸に来ていた。


「……すごっ」


 思わずつぶやく。

 だって、美奈都さんは社長夫人だから良いところに住んでるんだろうなとは思っていたけれど、なんか思っていた以上にすっごい豪邸ごうていなんだもん!



 依頼を受けると決めてからお母さんにもっと詳しい話を聞いた。

 ちょっと大きな会社の社長程度だと思っていた美奈都さんの旦那さんは、実はおもちゃやゲームなどの有名なメーカーの社長で相当な資産家しさんかなんだって。

 つまり、すっごいお金持ち。


 今回の依頼はその旦那さんの会社が今大事な契約を目前にしていて、それをよく思わない人たちが契約を取りやめるようおどして来たことが始まりらしい。

 家族が無事では済まない、みたいな脅迫文きょうはくぶんが届いたということで三兄弟の近くで護衛が出来る私に声がかかったというわけ。


 だからその契約が無事結ばれるまでの約ひと月、私は常盤邸の住み込みメイドとして働くことになってるんだ。

 ちゃんとメイド服とか支給されてたり結構本格的。

 緊張もあるけど、メイド服も可愛いしちょっと楽しいかも。

 初めての依頼だし、このときはまだワクワクの方が大きかったんだ。

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