3 空間跳躍

 歪曲時空には一見するとこの町内と特に変わらない風景が広がっているが通行人の姿はなく、この空間に生身で存在するのは俺とエリアスだけだ。


 生身で突入できるといっても歪曲時空はエリアスの無意識だけに基づいて存在しているため、そのままの状態では俺も10分と持たずに存在を失ってしまう。そのため、俺は宝田の意識から生じる念動力を不可視の鎧として纏うことによってこの空間に長時間存在できるようにしている。



(こちら大塚です。聞こえますか?)


 特殊な通信デバイスを通じて現実世界から大塚さんが呼びかけてくる。


「ええ、大丈夫です。今回はどの辺りを探せばいいんですか?」


(エリアスさんは大震災をなかったことにしようとして、直近の海底にあるプレートを目指しています。でもこの空間でもプレートに生身で行こうとすると途方もない時間がかかりますから、彼女は歪曲時空の中でさらに空間跳躍を行うつもりです)

「何だって!?」


 大塚さんがエリアスの位置情報を俺に伝え、俺がこの空間でエリアスに出会うことからすべては始まる。しかし、自身の無意識による世界ではいくらでも空間跳躍を行えるエリアスと異なり俺が跳躍できる距離は宝田の念動力の補助があっても限られてしまう。


(エリアスさんは今、眠ったまま自室のベッドにいます。その場所に直接空間跳躍しない限り今からでは間に合いません)

「ですが、それでは宝田が……」

(僕は大丈夫です。あなたを転移させると同時に現実世界へと戻ればどうにか存在を失わずに済みます。ただし、その後は10分も持ちませんからすぐに決着を付けて下さい)

「そうか。……では大塚さん、今から空間跳躍に入ります。サポートは頼みます」

(任せてください)


 大塚さんから時空平板化による援護を受けつつ、俺は宝田の念動力のほぼ全てを消費してエリアスの自室へと空間跳躍した。


 宝田の意識は現実世界へと戻り、鎧を失ったことで大塚さんとの通信も途絶えた。あと1週間ほど宝田は現実世界に実体化できないだろうが、今からすぐにエリアスの空間跳躍を止めなければ俺自身の存在も消滅してしまう。

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