4 世界を変えるコア
感覚が一瞬途切れた後、俺はエリアスの自室に出現していた。
目の前のベッドではエリアスがすやすやと眠っている。普段のハイテンションからは想像がつかないほど安らかに寝ているが、今はその姿を眺めている場合ではない。
「おいエリアス、起きろ!」
「……ん、何よ。誰……?」
まだ完全に覚醒していないのか、エリアスの眼は半分も開いていない。
とても今から海底のプレートまで空間跳躍しようとしている女には見えないが、この状態でもエリアスの無意識は活性化しているということは経験上分かっていた。
「……ってあんた、どうしてあたしの家にいるのよ!」
同級生男子である俺が昼寝している間に自室まで来ていたことに気づいてか、エリアスは驚きの悲鳴を上げた。
「静かにしてくれ、お母さんが聞きつけて……いや、それはないか」
この歪曲時空に生身で存在するのは俺とエリアスだけだから、その心配はない。
「こんな中途半端な時間に何の用なの?」
ベッドから上半身を起こし、エリアスが不機嫌そうに尋ねてくる。落ち着いて話すため俺もベッドに腰かけた。
すぐに本題に入りたいが、急がば回れという戦略もある。
「それは今から説明する。ところでエリアス、最近は夏が暑すぎるよな」
「もちろんよ。クーラーを最強にしても効かないなんて異常だわ」
エリアスが話に乗ってきた所で、俺は単刀直入に聞いた。
「そこでだエリアス。地球温暖化に対して、お前は今すぐに何ができると思う」
「それは当然、あたしが……。えーと、何だっけ」
無意識での話とはいえ、エリアスは自分が今からやらかそうとしていたことに何となく気づこうとしている。
「ああ、思い出さなくていい。それよりも、俺はお前に言っておきたいことがある」
「何なの?」
ひとまずエリアスの空間跳躍は阻止できたが、ここで終わっては根本的な解決にならない。
今の段階で、二度と同じ事態が起きないようにするのだ。
「地球温暖化に対して俺たちが今すぐできることなんてないんだ。地球規模でやらないと、持続的な環境改善なんてできっこない」
「あんたはそう言うけど、あたしは指を咥えて見てられないの!」
予想通りの反応が返ってきた所で、俺は準備していた言葉をぶつけた。
「それなら、お前は世界を変えるコアになればいい」
「コア?」
「地球温暖化は個人ではどうにもならないからと地球人はこれまで人任せにしてきた。その結果が今の猛暑だ。誰かがコアになって初めて、地球規模での対策が進むんだよ」
エリアスは俺の言葉に驚きつつも、次第に目を輝かせ始めた。
「それ、いい考えね。例えばあたしに何ができると思う?」
「政治で人々を動かすのもいいが、環境問題だけで協力者を集めるのは大変だ。お前がやるなら技術革新が一番だろう。原発よりも高効率の自然エネルギー発電を開発できれば、火力発電なんて見向きもされなくなるさ」
「それぐらい楽勝よ!」
上半身を乗り出してきてはしゃぐエリアスを見て、俺は一件落着という四字熟語を思い浮かべた。
エリアスの無意識がポジティブな方向に安定化したからか俺の意識はそこで途切れ、歪曲時空も自然と消失していった。
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