第16話 幼馴染登場

 即席の温泉でゆったりとしていると、見覚えのある牝馬が姿を見せた。


 毛並みが真っ白なだけでなく、精悍な顔立ちをしている一角獣だ。

 彼女はゆっくりと歩み寄ってくると、即席の露天温泉に入っている小生をじっと眺めていた。

「お久しぶりですね。シロンス」

「やあ! 元気そうで安心したよ」


 エレオノールペルルは、モノ欲しそうに温泉を眺めていた。

「気持ち良さそうですね。私も入っていいでしょうか?」

「ああ、構わないよ」


 彼女はすぐに湯船へと入ってくると、フェアリーのマリーヌへと関心を持った。

「……妖精族の子ですよね。羽はどうしたのですか?」

「それはね……」


 マリーヌが今までの経緯を説明すると、エレオノールペルルはすぐに納得したようだ。

「なるほど。それは災難でしたね……」


 相変わらず足湯を楽しんでいるマリーヌだったが、不思議そうな顔をしてペルルを眺めた。

「ところでペルルさん?」

「なんでしょう?」

「ここに来たのは偶然……なのですか? もしかしたら、シロンスに御用があったのでは?」

 質問を受けたペルルは頷いた。

「実は……大事な話があるので、入浴が済んだら少しお時間を頂きたいのです」



 すっかり疲れもとれたところで、温泉から出るとペルルは改めて小生の前に立った。

「それで……大事な話とは?」

「貴方が探している方は天使……でしたね?」

「うん!」

「その方かどうかはわかりませんが、透明な翼を持った女性が、いま……故郷に滞在していますよ」

「な、なんだって!?」


 思わず視線を向けると、さすがのペルルも「近いです……」と顔を赤らめながらも、続きを言った。

「彼女の名前はジャーダ。ヒスイのネックレスを持ち、銀髪の髪と……真っ白な翼を持つ方です」


 小生は頭で考えるよりも早く「それだ!」と答えていた。

「わかった。すぐに故郷に行こう!」


 そう言って歩き出そうとしたとき、ペルルは更に言った。

「ちなみに、ひとりではなくお供として男性の一緒にいましたよ」

「男性……? その人も天使かい?」


 聞き返す手見ると、ペルルは首を振って答えた。

「いいえ。冒険者の方です。名前は……アレックスという若い戦士でした」


 アレックスという言葉を聞いて、小生は懐かしく思った。

 彼はどうやら、すぐに故郷に戻った後で旅を再開していたということか。




「故郷はもうすぐそこです。案内します」

「うん、お願いするよ」

 そう答えながら、小生はペルルに大きな借りを作ってしまったと感じた。

 このままのんびりと旅を続けていたら、彼女と入れ違いになる可能性も大いにある。そうなったら、またこの広い世界を歩き回りながら、あてもない探し物をすることになるところだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る