第11話 雨が降り、お休みしていると……

 エルフの少女と別れた翌日。

 一角獣は、雨宿りをしながら草を食んでいると、木の側に興味深い人物が隠れていた。


「……珍しいな」

 そう呟くと、その少女は顔を赤らめたままこちらを見た。

「そ、そうかもね……羽がなくなったフェアリーなんて……」

「フェアリー自体が珍しいんだけど……」


 そう弁解したけれど、彼女の気持ちは晴れないようだ。

「はぁ……」


 彼女は自嘲するため息を付くと、体操座りをしてうずくまってしまった。

 どうやら訳アリのようだ。

「どうして羽がなくなってしまったんだい?」


 そう聞くと、フェアリーの少女は少しだけ視線を上げた。

「オオカミに……追い回されて、このままじゃ逃げきれないと思ったの」


 彼女は視線を下げた。

「だから、せめて気を逸らさなきゃと思って……」

 なんとなく察しはついたけれど、一応は最後まで聞いてみることにした。

「思って……どうしたの?」

「何か囮が欲しいって強く願ったら……羽がひとりでに体から離れて……」


「……囮として見事に本体を救った……と?」

 そう答えると、フェアリーの少女は頷いた。

「だけど……飛べなくなっちゃって……」


 確かに、彼女の大きさはひいき目に見ても20センチメートル前後といった感じだ。

 このサイズで飛べないとなれば、犬猫だけでなく猛禽類やカラスさえ捕食しに来るかもしれない。


 フェアリー少女は、モノ欲しそうにこちらを見てきた。

「羽が生えるまででいいから……乗せてくれないかな?」

「構わないけど、頭上の注意を忘れずにね」


 襲ってくるのは猛禽類だけではない。ヘビなどは枝を伝いながら近づいてきて、不意打ちを仕掛けてくるなんてことも十分にあり得る。

「ちなみに、故郷に帰るということは考えてないのかい?」



 頭に乗せながらそう聞くと、フェアリーの少女は少し考えて答えた。

「帰る場所はあるにはあるんだけど……妖精の隠れ里にもヘビとか、犬猫とか、猛禽類が襲いに来ることがあるの」

 なるほど。つまりどっちにしても飛べなければ、捕食者からは逃げられないということか。


 そんなことを考えていたら、小生はふと疑問を感じた。

 確かにある程度大きくなった妖精は飛ぶことができるだろうけど、まだ幼体の妖精はどうしているのだろうか。小生たちウマだって生まれて30分くらいは立つことができないことも珍しくはないのだ。妖精もひな鳥と一緒で、生まれてすぐに空を飛ぶことはできないはず。


「じゃあ、赤ちゃんとかはどうしているんだい?」

「……赤ん坊は、基本的に母親が抱きかかえているよ。飛べるようになるのは4歳くらいになってからだね」


 なるほど。だとしたら……妖精族のお母さんたちの子育ては大変そうだ。


「私の名前はマリーヌ……貴方は何て呼べばいい?」

 小生は微笑を浮かべた。

「道行く人たちからは、栗毛君と呼ばれているよ」


 そう伝えるとフェアリーマリーヌは、不満そうな顔をした。

「そういうのじゃなくて……本当の名前はないの? シルバーとかゴールドとか……」


 名前を聞かれるなんて、何だか久しぶりだと感じた。

「シロンス・フレッシュ……シロンスと呼んで」


 そう伝えるとマリーヌは、微笑を浮かべた。

「静かな矢……良い名前!」

 彼女はどこか楽し気に言った。

「しばらくのあいだ、よろしくね!」

「うん!」

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