第12話 フェアリーは普段、何を食べているの?

 妖精マリーヌは、ちょこんと小生の頭の上に乗ったまま空を見上げていた。


「シロンス……本当に雨、やまないね」

「うん。もうしばらくは……こんな感じかな?」


 小生は、昨夜にエルフの少女から貰った贈り物を、食べておいて良かったと思った。

 この雨の中、そのままにしておいたら、豆だって水気でダメになってしまうし、塩に至っては雨水と共に地面までダイレクトに流れていたことだろう。


 その直後に、マリーヌのお腹が鳴る音が聞こえてきた。

「……もしかして……何も食べていないとか?」


 彼女は恥ずかしそうな表情のまま、小さくうなずいた。

「なるほど……」


 小生は、ほぼ袋だけになったエルフからの贈り物を差し出した。

 本当に空っぽなのかと言えばそんなことはなく、小生では食べきれなかった豆がほんの少しだけ残っているのである。

「食べ残しで悪いけど、腹の足しくらいにはなるんじゃないかな?」


 マリーヌは嬉しそうな顔をすると、小生の差し出した布袋の中へとモソモソと入って行き、中から「あ、豆だ!」という声が聞こえてきた。


 中で何やら作業をすると、彼女は残っていた豆を抱えて袋から這い出てきた。

「ありがとう! これだけあれば……2・3日は大丈夫そうだよ!」

「喜んでもらえて良かったよ。小生の口では……これ以上は食べられなかったからね……」


 どこか遠くを見ながらそう伝えると、マリーヌはクスッと笑った。

「お互いに、不便なことってあるよね」



 どうやら、マリーヌのようなフェアリーは、豆を3粒ほど食べれば満腹になるようだ。

「ごちそうさま、シロンス」

「どういたしまして。ところで……?」

「なあに?」


 サイズが小さなフェアリーは、普段はどんなモノを食べてるのだろう?

 人間と変わらない雑食なのだろうか?

 それとも、草食なのだろうか?

 いや、意外にも肉食に近いということもあり得る。思いきって聞いてみた。


「フェアリーって、普段はどんな食事をしているの?」


 マリーヌは、少し考えてから答えた。

「そうねえ……うちの集落の郷土料理といえば……」

「うんうん!」

「小鳥のスープに、豆やナッツの入ったパン。樹木の若芽のサラダに、山菜サラダ……辺りが定番かな?」


「人間と変わらないものを食べているんだね」

 そう伝えると、マリーヌは複雑な表情で答えた。

「私たちはね。男の……つまりピクシーは凄いよ?」


 その言葉を聞いて、小生は興味をそそられた。男連中は、どんなモノを食べているんだ!?

 やはり、自分よりも大きな生き物の肉だろうか。イノシシとか集団で狩りをしていたら凄いな。


 そう思いながら頷いていると、マリーヌは言った。

「ハチの子とか、いもむしとか、トカゲのシッポとか……」

「…………」

「…………」


 確かに凄い。というかワイルド過ぎる。

 確かにサイズ的に、虫とか小動物が狩りの対象になるのはわかるが、可愛らしい妖精族が、豪快にイモムシにかぶり付いている……というギャップが強烈すぎる。


「小生は、君が草食的なフェアリーで安心したよ」

「虫には、寄生虫がいることもあるから、よく焼かないと危ないと言っているんだけど……男の子って、人の話を聞かないの!」

 そう言いながら、マリーヌはムクレていたが、その仕草も可愛いものだと思う。


 でも、改めて考えると、幼そうな容姿をしているけど、マリーヌって言っていることが大人びているような……


「ちょっと、失礼な質問するけど……ごめんね」

「ん? どうしたの?」

「マリーヌって、見た目よりも大人びている感じがするけど、実年齢は何歳くらいなの?」

 際どい質問だなと自分でも思ったが、マリーヌは慣れた様子で答えてくれた。


「よく、驚かれるんだけど……この見た目で、23歳なの」

「ええっ……!?」


 本当に、人を見た目で判断してはダメなんだな……



 そんな感じで雑談を続けていたら、少しずつだが雨足が弱まっていた。

「……この様子だと、明日は旅をすることができそうだね」

「私も是非、お供したいけど……どこに行くの?」


 小生は山地を眺めていた。

 ここは、人なら決して立ち入ろうなんて考えない場所だが、小生のような動物にとっては他にはない楽園だ。山の中にある小生の故郷に行って情報収集をしたいところだ。


「そうだね……この山を越えたい」

「それなら、妖精の里に寄っていくといいよ……何せ私の故郷だからね」


 妖精の隠れ里か……どのような場所なのか、今から楽しみだ。

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