第10話 貴重な薬草が群生していたワケ
エルフの少女を乗せ、指示通りに歩いていくと彼女は止まるように指示してきた。
「ちょっと待っていて……」
どうやらエルフの隠れ里は、巧妙に魔法の力で隠されており、普通の生き物では入り口が認識できなくなるような仕組みになっているようだ。
少女は、ゆっくりと小生の背から降りると、足を引きずりながら村へと入っていき、しばらく待機していると、父親と思しきよく似たにおいの男性と共に現れた。
「娘を助けてくれたそうだね……家族を代表してお礼を言わせて欲しい!」
やはり家主だったか。
どんな返事をしようかと一瞬思ったが、少しイタズラ心を感じた小生は、喉を鳴らして軽くすり寄るだけの挨拶に留めることにした。
「はははは……人懐っこい仔だな。せっかくだしうちの子になるかい?」
冗談っぽく提案してきたが、小生は夜空に顔を向けてから、しっかりと家主を見た。
この態度だけで伝わっただろうかと少し心配だったが、男性はとても察しが良いようだ。
「そうか、君にもやるべきことがあるんだね」
隣にいたエルフの少女は、豆のたくさん入った袋を小生の前に出した。
「約束通り塩と豆よ。それからこれ……とても貴重な薬草なんだけど、偶然1つだけ手に入ったの」
彼女が差し出した薬草には見覚えがあった。
これは、間違いなく……昼間に60以上もの株を食べた、あのレアな薬草じゃないか。あの群生地帯にエルフの匂いはしなかったけれど、一体どこから入手したのだろう?
「…………」
いきなり薬草を見て喋りはじめるのも、父親に失礼な気がしたので、小生は彼女の差し出した薬草を食べてから目をつぶり、角を現すことでクラスチェンジが起こったかのように見せかけた。
「お、おおっ……これが噂に聞くクラスチェンジか!」
父親が感心した様子で言ってきたので、小生は静かに答えた。
「貴重な薬草をありがとう。これは……里で栽培しているのかい?」
「あ、ああ……そうさ。詳しい場所までは言えないが、村のとある場所で共同で管理しているんだ」
小生は納得しながら答えた。
「なるほど。一口食べただけで……大事に育てられていることがわかったよ」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。何せ我が里に伝わる秘伝の薬草だからね!」
それはそうだろうと思いながら頷いた。
「このことは口外しないよ。また機会があれば再会しよう!」
「今日は本当にありがとう!」
エルフの親子は、小生が去る間ずっと見送りを続けてくれた。
彼らと別れ、来た道を引き返していく小生だが、ふと……先ほどには嗅いだことのないにおいが鼻腔へと流れ込んできていることに気がついた。
「……あれ? もしかして……」
スンスンと鼻を動かしてみると、離れた場所に咲いている雑草の花の匂いを、かぎ分けることができるようになっている。
いや、それだけじゃない。草の匂いに紛れた小動物や昆虫のにおいも、しっかりと入ってくる。
「やっぱり、嗅覚が鋭くなっている……これも薬草を食べたおかげかな?」
思わぬ贈り物をもらって上機嫌に歩いていると、風が吹いてきて、小生の鼻は覚えのある匂いを捉えた。
「……ん?」
その方角を見ると、見えているのは森に過ぎなかったが、位置関係をよく考えると、エルフの隠れ里があってもおかしくない場所だと言うことに気が付いた。
「これは……さっきの親子の匂い……それに……」
再び鼻の穴を開いて匂いをよく嗅いでみると、エルフたち以外にも微かに興味深い匂いが混じっていることがわかった。
これは先ほど食べた薬草の香りだ。野生種ではなく、きちんと管理された貴重な薬草の匂いが風に運ばれて、ここまで漂ってくる。
「しかも川のにおいもするな……ん?」
小生はあることを察すると更に来た道を戻っていき、少女が座っていた川原へと向かった。
その場所から更に川の下流を見ると、小生は納得した。
「なるほど。エルフの村で栽培している貴重な薬草の種が……川で運ばれて行って、下流のあそこに流れ着いてから群生したということか」
でもよく思い出してみると、最初に食べた野生の薬草には、辛みや、ほどほどのえぐみもあった。
一方で、エルフから貰った薬草は、栽培方法で工夫をしているためか、口当たりがとてもよく、更に甘みも増していた感じがする。
「どっちがいいのかは……一概には言えないよね。あの辛みやえぐみもクセになる味だったし……」
そんなことを呟きながら、小生は少しだけ休憩を取ることにした。
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