第6話 暗躍

 その日の夜。

 小生は、演奏家の少女と共に就寝の準備をはじめていた。


 少女は焚火をつけて、近くから調達したハーブなどを入れてスープを作り、小生は時間の許す限り草を食んでいる。


「ユニコーン様、ぜひお召し上がりください」

「ありがとう!」


 スープの差し入れは、とてもありがたかった。

 小生のような動物は、基本的に塩を手に入れる手段がなく、自力で岩塩を探し出すか、温泉が湧き出ている場所でミネラルを取るか、海に行くくらいしか選択肢がない。

「…………」

 口に含んでみると、ちょうどよい感じで塩気があり口当たりも良かった。

 それに口の中に広がるハーブの風味がまた良い。美味というのはこういう味を言うのだろうとさえ思えた。


「ごちそうさま。とても美味しかったよ!」

 少女はとても嬉しそうに、そして照れくさそうにしていた。こうして見ていると年相応の女の子で可愛らしいと思える。



 食事を終えて横になると、なにやらまた、何かに見られているような気配を感じた。


 先ほどと気配が似ているし、数も多い。

 なんとなく向けられている視線の当たり方から、8から10人ではないかと思えた。

「…………」


 そっと目を瞑って、細かく足音や息遣いを探ってみると、プロハンターレベルの足運びの者が最低でも2人。

 残りは、それに比べれば見劣るが、とにかく人数が7から8人と多い。

 このままぶつかれば、こちらもただでは済まないだろう。


「ねえ、起きて」

 そう伝えると、少女は眠そうに目を開けた。

「いかがなさいました?」


「あまり素行の良くない連中が、すぐ近くまで来てる」

「な、なんですって!?」

 小生は、静かにと合図を送ってから話を続けた。

「敵の中に、感覚の鋭いヤツがいるみたい。だから、ここは小生に任せて」


 そう提案しても、少女は納得していない様子でこちらを見てきた。

 正直、彼女との旅は楽しかった……また、一緒に旅をしたい人物だからこそ、ここで危険な目に有って欲しくはない。



 小生は、しっかりと少女を見た。

「さあ、今のうちに行って……生きてさえいれば、また再会して旅ができる」

 少女は寂しそうな顔をしていた。小生と離れたくないようだが、今回ばかりは彼女の願いは叶えられそうにない。


「…………」

「…………」

 彼女も、現状が理解できたらしく、静かに頷いた。

「旅の神よ……彼の者に幸運を!」

「幸運を!」


 こんな形でお別れになるとは不本意だが、追手の狙いは間違いなく小生だろう。

 今まで、何度となくユニコーンハンターと名乗るならず者に追われてきたが、今回も空気がよく似ている。



 小生はすぐに角を光らせ、森の精霊に働きかけた。

 森の精霊は、一応は姿をみせてはくれたが、迷惑そうな顔でこちらを見てくる。


 まあ、こういう反応になるのは仕方ない。彼女たちは樹木や動物を守護する存在だ。

 炎のユニコーンである小生のことを、とても疎ましく思っている。


『なんの御用ですか、火遊び一角獣殿』

 早速、トゲのある言葉が飛び出したが、向こうから声をかけてくれるのなら、まだやりやすい。

 小生もまた、鼻につかず卑屈にもなり過ぎないように気を付けながら返答した。


「小生は能のないウマでね。客人が大勢いらっしゃったんだけど、あいにく炎で持て成すことしかできない」

 そう告げると、森の精霊は微笑を浮かべた。

「貴方のファイアーダンスを少し見てみたい気もしますが、場所が場所ですからね……ここは、アレで手を打つのが上策でしょう」


「アレとは……?」

 すこしとぼけてみると、精霊は真顔で言った。

「森の精霊が侵入者にとる方法なんて、一つしかないでしょう」


 彼女は視線を、ちょうど演奏家の少女が避難した方角に向けた。

「ちょうど、渡り鳥ちゃんの避難も終わったところだしね」

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