第5話 道草を食うおウマと、営業する演奏家
昼過ぎまで歩くと、小生たちは街道へと出た。
今までの森の中の小道とは打って変わって、街道には様々な人や馬車が通り抜けていくので、とても賑やかだ。
「旅芸人も見かけないし……ここで少し演奏でもしてみようかな?」
彼女がそう言ったので、小生も辺りを見回した。
「……美味しそうな草が生えてるから、道草を食うことにするよ」
少女は適当な木陰に立つと、演奏をはじめた。
彼女の曲のレパートリーはなかなかに多く、北の氷の大地に住む民族が懐かしむ曲から、西の砂漠の民が好んで演奏する曲、または海を越えた未知の大陸の民族曲まで、実に様々なジャンルの曲が飛び出す。
道行く人々も少女の演奏に関心を向けることが多く、氷の大地の曲を演奏しているときには、金髪の行商人がコインを箱に投げ入れ、砂漠の演奏をしているときは、ヒゲを生やしラクダを伴った商人が、しばらく足を止めて聞き入ってからコインを入れていた。
少女も目の前に人が立ったら、その人物が喜びそうな考えているらしく……曲の演奏が終わると、その人物の出身地を想像しながら、その土地に近い曲の演奏をするのである。
ラクダを伴った砂漠の民は、顔をほころばせて喜んでいる。どうやらこの人にとっては大当たりだったようだ。
その後に足を止めてくれた金髪の職人は、惜しいと言いたそうに笑っているので、少女は更にアタリをつけて曲を選出する。
「ねーちゃん、若いのに大したもんだ!」
旅の職人もそう言いながら笑うと、銅貨を数枚入れていく。
ちょうど曲も終わったところなので、少女はありがとうと言いたそうに喜びの曲を演奏していた。本当に彼女は、曲を言葉のように使っていておもしろい。
2時間半ほどかけて野草を堪能したとき、少女の足元の箱にも小銭がそれなりに溜まっていた。
まだ彼女は取り込み中なので、歩み寄って腰を下ろすと、少女も曲をキリがいいところまで演奏してから笛から口を離した。
「今日は、いろいろな人に曲を聴いてもらえました」
「演奏中も嬉しそうだったもんね」
彼女を背中に乗せると、小生はゆっくりと立ち上がった。
「さて、そろそろ行こうか」
少女も嬉しそうに頷いたので、小生は微笑を浮かべながら答えた。
「……お客さんを持て成さないとね」
「もう次の演奏のことを考えているの? 気が早いよ~のんびりと行こう」
「それもそうだね」
ずっとのんびりできるのなら最高だが、旅にはやはり危険はつきものである。
「…………」
今回、小生たちの身の安全を脅かしそうなのは人間だ。
少女の前を通り過ぎたのは、下っ端ぽい男が1人だったが、更に遠くから野獣のように獲物を見定める視線を複数感じる。
小生は、足運びを並歩と速歩のあいだくらいの速度にした。
あからさまに急いでいますという足運びにしたら、敵側に気付かれて対策される可能性があるが、中途半端な対応をすれば相手側も判断に困るというわけである。
「やっぱり、君の乗り心地は最高だね」
「ありがとう」
歩きはじめて20分。
神経戦を仕掛けてみると、小生たちを追ってきている敵意むき出しの一団は、息をあげて汗だくになりながら尾行を続けていた。
ウマにしては歩くのが少しだけ速めという速度は、人間にとってはかなり早歩きをしなければならず、時間が経過するごとにじわじわと体力を奪っていくのである。
さすがに少女も、小生が少しだけペースを速めていることに気が付いたようだ。
「何だか……少し速くない?」
「休憩しながら君の演奏を聴いていたら、なんだか元気が出たんだよ」
その直後に小生は、微笑を浮かべた。
どうやら、敵意むき出しの一団は小生たちを追うことを諦めたようだ。恐らく、少女とウマしかいないから悪さでもしようと思っていたのだろうが、こういう輩には関わり合いにならないのが一番である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます