半径55cm

新棚のい/HCCMONO

折り畳み傘の小さな領域に入れと言った無防備なきみ

折り畳み傘の小さな領域に入れと言った無防備なきみ

きみんちに着くまでの距離 脳内で測って少し速度を落とす

肩と肩触れて離れてまた触れてほのかに灯る心のランプ

お揃いの開襟シャツの胸元に小さく光る異なるバッジ

校則で決められている白い靴なのに違って見えるのはなぜ

手も足も大きいきみはもうじきに背が伸びるから遠くなるんだ

つまらない授業の話してるだけでもきみとなら大事な記憶

雨に濡れ露わになった骨格がうつくしいから視線を逸らす

標本に残してみたい今ここに居るきみのこと永久にしたいよ

きみのまだ制汗剤に汚されていない匂いが不意によぎった

カーブミラー映るきみとのツーショット恥ずかしいのはやましいからか

仄暗い欲望ばかり肥大する いずれ大人になるのが怖い

買い食いをしたがるきみのやんちゃさが本当は好き 止めはするけど

空っぽになってるきみの水筒に麦茶を分ける親切そうに

「ありがとな」笑ったきみの唇の端がきれいに上がる瞬間

恋だって気づいたときも満面の無邪気な笑顔だったな確か

好きな子は出来たかなんて問いかけるきみは誰かの彼氏になるの

少年のままでいたいよ変わらずにいたいよきみのそばにいたいよ

秘めたままいつか死ぬまで友達でいようと決めて傘を出ていく

近いほど分かりあえない淋しさを思い知るからきみが嫌いだ

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