第38話、崩壊

 意識いしきが現実世界へと戻る。其処そこには、異能者達と天使達が僕と神の様子をじっと観察するように見ていた。どうやらすこし心配をかけたようだ。

わったぞ。神とのたたかいはこれで終わりだ」

 その言葉と共に、わっと異能者達から歓声かんせいが沸き上がった。

 秀とアキが、僕に向かってびついてくる。二人には散々心配をかけた。それと同時にこれ以上ないくらいに感謝かんしゃもしている。二人が居たからこそ、僕はきっと此処まで来れたのだろう。そう、信じている。

 だから―――

「ありがとう、二人とも。二人が居たからこそ、僕はここまでれた。二人が居たからこそ僕はきっとやってこれたんだ。本当ほんとうにありがとう」

「ううん、私こそありがとうだよ。私だって、ユウキにずっとささえられてきた。ユウキが居なきゃきっとずっと前にくじけていた。だから、」

「ああ、それは俺だってそうだ。全てはユウキのおかげだ。ありがとう」

 そう言って、俺たちは三人でき合う。うれしさが頂点に達した時、しかしそれは起きたのだった。

 雷鳴のような、激しい音が神域全体に鳴り響く。続き、神域全土を空間ごと揺るがすような巨大な地震が発生する。その揺れと大音響に、異能者達はおろか、天使達ですらおののく。

 どうやら、この事態は天使達ですら想定外そうていがいだったらしい。全員が右往左往と混乱の極みの中に居る。

 そんな状態で、先ほどからだまっていた神がぽつりと言葉をらした。

「どうやら、神域が俺の制御せいぎょを離れて暴走状態にあるらしい。さすがにこれはマズイだろうな。このままでは、神域は他の世界じげんを巻き込んで大崩壊だいほうかいを起こすぞ」

「なっ⁉」

 その言葉に、真っ先に仰天ぎょうてんしたのは秀だった。目をこれでもかと見開いて、愕然としている。だが、そんな中で僕は比較的落ち着いていた。

 比較的落ち着いた状態で、神にく。

「……じゃあ、この状況じょうきょうをどうにかする方法は?」

「…………一つだけ、あるにはある」

 そう言って、神はこたえた。

 この状況下において、ある種最悪とも言える手段しゅだんを。

「神田ユウキ。かみの後継者としての資格しかくを持つお前が、この神域を制御すればこの大崩壊は止まるだろう」

「……なら」

駄目だめだよ‼」

 言いかけた僕の言葉にかぶせるように、アキが叫んだ。アキの方を見ると、アキは涙を流しながら僕をにらんでいる。その涙に、僕は思わずぎょっとした表情かおで彼女を見詰める。

 そんな僕にすがりつくように、アキはぎゅっと僕の服を握りしめた。

「ユウキが神になるっていう事はつまり、ユウキが私のそばからいなくなるっていう事でしょう?それは絶対に嫌!私、ユウキが居ない世界なんてきてられない!」

「俺もそうだ。ユキ、お前の居ない世界なんてなんの面白おもしろみもないじゃないか。俺たちにはユキが必要ひつようなんだよ」

 アキの言葉に被せるように、秀がげる。

「それ、は……」

 黙り込む。でも、それじゃあどうすれば……

 沈黙ちんもくが流れる中、それをあざ笑うかのように高笑たかわらいが響く。この声は、まさか!

 僕が、声の響く方へ視線をやる。すると、空間の隙間すきまからするりと滑り出すかのようにひょろりとした黒い細身の身体に顔のい名状しがたい生物が現れた。

 その存在の出現に、異能者達から悲鳴ひめいが上がる。だが、僕は比較的落ち着いた口調でその異形に声をかけた。

「なんの用だ?無貌むぼう

「べっつにー?お前がこまっているようだから、■がたすけてやろうと思ってな」

「……どうするつもりだ?」

「神域の管理者かんりしゃ、■がけ負ってやるよ」

 そう言って、無貌は僕に笑った。顔が存在しないにも関わらず、僕はそいつが笑ったように感じた。

 だが、驚いた事にそれに反対はんたいしたのはかみの方だった。

「俺は反対だ。無貌、お前には神域の管理者としての資格がない。神域そのものに拒絶されて存在そのものがし飛ぶぞ」

「それは―――」

 駄目だ。そう言おうとした僕に被せるように、無貌は言った。

「大丈夫だ、その為の裏技うらわざが存在する」

「……裏技だって?」

「ああ、その裏技は―――」

 その裏技、それは―――

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