第35話、神域へGO!

 と、突如として広場内をアラート音がり響いた。モニターには赤いランプが点滅して何かが起きた事は明白めいはくだった。

「フユさん、何がきました?」

「お義母かあさんと呼んでちょうだい!どうやら敵に勘付かんづかれたようね!」

 モニターの向こう。次元の狭間はざまの向こうには無数むすうの天使達がこちらへと飛行してきていた。どうやら戦闘の意思いしがあるようで、全員が剣や槍で武装しているのが傍目に見ても理解出来た。

 天使の数は優に百をえているだろう。その全員が、猛々たけだけしい炎を身に纏っているのが分かる。どう考えても下っ端の天使エンジェルではないだろう。

 天使の軍勢ぐんぜいを見て、フユさんは息をんだ。

熾天使セラフィム……それも先頭に居るのは天使長てんしちょうのミカエルという所かしら?随分と本気を出したものね」

「フユさん、少し僕にかんがえがあります……」

「お義母さんと呼んでちょうだい。何か考えがあるの?」

「はい、そのままアメノトリフネを神域しんいきへと突入させて下さい」

「……本気ほんき?」

「ええ、本気です」

 そうして、フユさんは腹をくくったのかアメノトリフネを全速力で前進させた。天使達が身構えるが、もちろんさせる筈がない。

 僕はその瞬間、天使達に向けて異能を解放かいほうさせた。

 異能の影響を受けた熾天使たちは、全員びくっと肩をふるわせ硬直する。そして、その隙にアメノトリフネは次元の狭間を抜け、神域へと突入した。

 神域には、神々しいまでの空気しんきが満ち満ちているのが傍目はためにも理解出来る。其処には途方もないくらいに膨大なかずの天使達が居た。何処までも広がる果ての存在しない無限の空間。その奥に、神がしている。

 そう、僕たちはついに神のもとへと到達したのだ。

 神は、目に見えて不快ふかいそうに目を細めているのが分かる。どうやらかなり苛立っているらしい。実に分かりやすい。

「……フユさん、僕達を船のそとへ出して下さい」

「大丈夫?」

「はい、天使達から攻撃をける事は絶対にありません」

「……?分かったわ」

 そうして、僕達は神域しんいきの地へとり立った。

 神の目元がぴくりと動く。その視線の先には、僕が。

「ふむ、脆弱ぜいじゃくな人の身で運命のを脱したか。だが、その程度でよもや我が手中を脱した気ではいるまいな?」

「僕達は何時までも神様の庇護下ひごかに居るほどなさけない存在ではない。親離れの時が来たんだよ。当然の帰結きけつだろう?」

「言いよるわ。だが、この状況下で何が出来できる?この圧倒的な数の天使達を前に貴様達は一体何ができるというのだ」

 そう、普通に考えればこの圧倒的数の差は絶望的ぜつぼうてきと呼べるだろう。だが、普通に考えればの話だ。僕が今からやろうとしているのは普通じゃない。

 つまり、この数の差をひっくりかえす。

「———今だ、裏切うらぎれ」

 その言葉がキーだった。一斉に天使達の全てが、自身のあるじである筈の神に向けて剣や槍を向けて反旗はんきを翻した。

 その光景に、思わず目を見開みひらく神。それは、他の異能者達やアキ、そして秀ですら同じだった。全員が信じがたい光景こうけいを見たように目を見開いている。まあ、それも当然の反応だろう。

 だが、この状況は僕が事前に撒いておいたたねが発芽した結果だ。

 つまり、以前神の前に召喚された時にすでに天使達に異能を行使していた。それが今になってようやく実をむすんだだけだ。

 さあ、形勢は逆転した。決戦けっせんの始まりだ。

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