第29話、奥に潜むもの

 世界はまるで万華鏡まんげきょうのように綺麗で。様々な色彩イロに溢れている―――

 何処を見渡しても同じ色彩イロはなく、それ故に多様性たようせいに溢れている―――

 何処を見渡しても同じ形状けいじょうはなく、それ故に皆異なるカタチをしている―――

 故に、僕は。故に■は―――

 ・・・ ・・・ ・・・

 其処そこは、果たして何と形容けいようしたものだろうか?様々な色彩や形状に変化していく万華鏡のような。或いは周囲を鏡でかこまれた合わせ鏡の部屋のような、そんな美しいけど何処か浮世離うきよばなれしている空間が広がっていた。

 そんな空間に、僕一人が立っている。いや、違う。僕一人ではないな。

「えっと、其処にるんだろう?出てこいよ」

「やはり、気付きづいたか……」

 そう言って、空間の隙間すきまから身体をすべり込ませるように出てきたのはやはり何と形容した物だろうか?からないけど、其処には何かが居た。

 ひょろりとした体躯たいく、爬虫類的なうろこを身体中に生やし、けど全体的に見れば人間に近い姿形をしている。全体的に真っ黒な異形いぎょう

 顔は無い。のっぺりとした黒いかげが表面をおおっている。

 けど、何故だろうか?顔が無い筈のその異形がとてもうれしそうに笑っている気がするのは。

 ともかく、僕は彼に話し掛けてみる事にした。

「えっと?とりあえず名前をこうか?僕の名前は神田ユウキだ」

「おう、■の名前は無貌むぼう。しがないカオナシの悪魔あくまさ」

 無貌ね。文字通りかおが無いという訳か……

「で、此処は何処どこだ?確か僕はさっきアキを取り戻した直後にたおれた筈だけど」

「ああ、倒れたな。此処はお前の精神世界という奴だ。ゆめの中とも言うな」

「夢?」

「ああ、今のお前は傷をいやす為に少しねむりについている感じだ」

 なるほど?そう考えれば今の状況のほぼ大半は納得出来る。そう、ほぼ大半は。

 けど、それよりも今気になる事はほかにもある。

「それで、お前はどうして僕の心の中に居るんだ?」

「それはもちろん、お前を神からまもる為だよ」

「………………」

 何だろうか?非情に胡散臭うさんくさい。

 異形の怪物あくまから守ると言われても胡散臭うさんくささしか感じない。

 そんな僕の心情しんじょうを読んだのか、顔に出ていたのか、無貌むぼうはけたけたと笑いながら自分の言い分を話す。

「いや、ぶっちゃけて言うとよ。神の馬鹿野郎が異能いのうなんて世界中にばらまいたから世界中が一時大混乱におちいってよ。今は比較的落ち着いているからマシだが昔なんか大規模な魔女狩りだ何だと言って大量殺戮に走った奴等もいた物だ」

「はあ、そんな事が……」

「全ては神の野郎が身勝手な言い分で人間達を振り回したのが原因げんいんなんだが。■から見てもアレはかなりみにくかったぜ」

「で、それでお前は僕を守る為に僕の中に入ったと?」

「おうよ、これでも■は神からお前を守る程度ていどの力くらいはっているからよ」

「そうか、とりあえず今まで守ってくれてありがとうよ。けど、これからの神との戦いでは大丈夫だいじょうぶそうだ」

「……へえ?何か勝利の算段さんだんでもあるのか?」

「ああ、あいつ等の部下ぶかである天使達を根こそぎ味方みかたに引き入れる」

「———っ⁉」

 一瞬、無貌は絶句ぜっくしたように言葉を詰まらせた。だが、やがて弾けるような哄笑を上げ大爆笑だいばくしょうした。

「はは、あはははは‼そうか、それは愉快痛快だ‼神の野郎もぎゃふんといたい目を見るだろうよ‼あはははははは、ははははははははっ‼」

 かなりの大爆笑だった。其処まで面白おもしろい事を言っただろうか?

 まあ、別にいけど。

 と、其処で僕の意識いしきが浮上していくのを感じた。どうやら、そろそろ目を覚ます頃のようだ。

「そろそろ目をます頃のようだな。じゃあ、またな―――」

「ははは、またなか。おう、じゃあまたな!」

 そう言って、僕は意識を覚醒かくせいさせた。

 ・・・ ・・・ ・・・

「…………またな、か。あいつ、また■とうつもりらしい」

 それは随分とまあ愉快痛快な話だ。俺を見た誰もが不快感と恐怖きょうふに絶叫を上げたというのに。アイツにはそれすらないのか。

 そう思えば、アイツに出会ったのも中々にわるくはないのかもな。

「じゃあな、また会おう。神田ユウキ———」

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