第27話、襲撃者

「……ふむ、これはすこし状況的にマズイか」

 玉座にすわりながら、そう神はつぶやいた。神は全知全能だ。それ故にこの世の全てを知る事が出来る。そしてそれ故に現在、神のから神田ユウキという少年が脱しようとしている状況に初めてあせりに近い感情を見せた。

 本来、全知全能である神の掌をだっする事は不可能だろう。だが、事実として神田ユウキは神の掌を脱しつつある。

 それは、即ち……

「俺をえつつあるのか、少年の異能ちからが。少年の存在が……」

 この世に生きる全ての生命いのちは神の課した運命うんめいに従って生きている。その強制力は絶対であり簡単に脱する事など出来できない。本来は……

 だが、事実として神田ユウキは神の運命めいれいから脱しようとしている。それはつまり神田ユウキが全知全能を超えつつあるという事に他ならない。その事実に、初めて神は焦燥にも似た感情を抱いた。

「早急に何とかする必要ひつようがあるか……支上アキ」

「……………………」

 神の前に、支上アキが跪いた。そんな彼女に神は一言命令をくだす。

星海船じんこうとうを襲撃せよ、早急そうきゅうにだ」

「……………………」

 そして、アキは神に一礼いちれいするとそのままその場から消失しょうしつした。

 ・・・ ・・・ ・・・

 目をました。其処は、アメノトリフネの管制制御室内だった。どうやら、僕は少しばかりねむっていたらしい。

 僕が起きた事に、真っ先に秀が気付く。

「おお、きたか!ユキ!」

「………………」

「ユキ?」

 何も答えない僕に、秀が怪訝けげんな表情をする。だが、そうして呑気にしている場合でもないだろう。僕は、すでに気付いていた。

 あいつが、此処に近付いている気配に。

「来たか、アキ」

 僕が一言告げた瞬間、僕達のすぐそばにある空間が断ち切れた。バチバチと紫電しでんが走る空間に全員が一歩二歩と後退こうたいする。僕以外は……

 そして、その空間の裂け目から現れたのは。僕が良くっている人物だった。

「アキ、貴女あなた……」

 フユさんが、思わずと言った感じで息をんだ。現れたアキは全くの無表情。無機質で能面を思わせる表情かおをしていた。一見すれば、もう支上アキという個人は此処に居ないと思ってしまうだろう光景。

 だけど、僕には理解出来た。アキは今もいている。神に玩弄がんろうされ、運命に振り回されている現状に泣いている事を。

 だから、

「アキ、遠慮えんりょする事はない。い」

「———っ⁉」

 その言葉に、アキは初めてその無機質な表情を変化へんかさせた。他の皆も、心底驚愕したという表情をしている。

 けど、僕だって今はらわたが煮えくり返るようないかりを抱いているんだ。

 決めたよ、僕は―――

「決めたよ、僕は―――アキと喧嘩けんかするよ」

「……………………」

「喧嘩して、ゆっくりと話し合う事にする。アキと一緒に居続ける為にも」

 だから、

「来いよ、僕はそう簡単かんたんには死なないぞ?」

 そう言って、アキにわらい掛けた。その言葉に、アキは―――

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