第25話、支上フユの試練

「えっと、フユさん?それでたのみたい事があるんですけど……」

「ええ、この船の全権ぜんけんが欲しいんでしょう?でも、その前に一つやってもらわないといけない事があるのよ」

 それは一体?そう言おうとした瞬間、僕の意識いしきが何かに横入よこはいりされるような感覚に襲われた。その感覚は恐らくただしいのだろう、僕の意識の中に何かが入り込んでそのまま僕の意識はあらがえないままに暗転して……

 ・・・ ・・・ ・・・

 急にたおれたユキ。俺は思わず目をいて真っ先に駆け寄った。

「おい、ユキ?ユキっ‼」

安心あんしんして。別にユウキ君には何もたいした事はしていないわ。ただ、私から一つだけ試練をしているだけよ」

「試練、だって……?」

 秋山さんが怪訝けげんな顔をして問い返す。俺とアーリカも怪訝な顔をしていた。

 試練?一体何を言っているんだ?

「私が調しらべた所、あの子は少しむずかしくてね。そのままこの船の全権を任せる訳にはいかないのよ……」

「どういう事だ?」

 俺の疑問に、フユさんは少しさみしげな表情をしていた。

「あの子は、神田ユウキ君はね。両親と確執かくしつを抱えたまま両親に遠慮えんりょして家を出ていったのよ……」

「それ、は……」

「ええ、それだけだったらまだ異能者いのうしゃにはよくある話よね。でも、あの子の場合は少しだけことなるの。ユウキ君はね、相手の想いをみ過ぎるのよ。簡単に言えば、相手の想いを直接理解出来るからこそ自分の想いを他所よそに遠慮をしてしまうの」

「……………………」

 それは、俺だってわかっていた筈の事だった。ユキは相手のおもいを汲み取り過ぎる部分がある。他者たしゃの想いを直接理解出来るからこそ、相手を何よりも最優先さいゆうせんするのだろうと思う。

 けど、それは……

 それは本当に、異能者ならばくある話ではないか?そう、俺は思う。異能という一般ではない才能を持って生まれたからこそ、異能にり回される。

 それは異能者ならばある程度仕方のない話ではないか?そう思ったのだが……

 フユさんは首を横に振った。

「ユウキ君の場合は話しはわってくるわ。あの子は神に後継者こうけいしゃとして異常に気に入られている子よ?今の確執をかかえ込んだまま出向けばそこを突かれかねないわ」

「あ……」

 そうだ、何故気付かなかったのだろうか?神は今までの全てを自身の思うがままに掌握してきた筈だ。だったら、ユキの抱える問題もんだいだって理解している筈だろう。

 だったら、神が其処を突いて来てもおかしくはないだろう。

「だから、彼には無理矢理にでも此処ここでその確執を解決かいけつして貰う必要がある。そう私は考えたのよ。他でもないユウキ君自身のためにもね……」

「そう、でしたか……」

 そう言って、俺はユキを見た。ユキの額からはあせが流れている。その表情は苦悶くもんの表情を浮かべてうなされているのが一目でかった。

 そう、今ユキは自分の確執と戦っているのだろう。だったら、今の俺達に出来るのは黙ってユキを応援おうえんする事ではないか?

 そう、思った……

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