第20話、医者のエルさん

「……………………」

 絶句ぜっくしていた。

 いや、何がって看護婦かんごふに連れられてやってきた医者がおさない少年の姿をしていたら誰だって驚くを通り越して呆然ぼうぜんとすると思う。えっと?これは一体どういう事だ?一体何の冗談じょうだんなんだこれは?

 対する医者……白衣を着た幼い少年はおだやかな笑みでにこにこと笑っている。その笑みはとても穏やかで、素敵なみだった。

 だったのだが、やっぱり冗談のようにしか思えない。

 そんな僕の心情をさっしたのか、秀は苦笑くしょうを浮かべながら言った。

「……ユキ、紹介しょうかいしておくと彼がこの病院の院長いんちょうでもあるエルさんだ」

「えっと?冗談じょうだんとかではなくて?」

「ああ、何一つ冗談じゃない。それから一つ注釈ちゅうしゃくしておくと、この人は俺達よりも年上だからな?」

「は、はぁ……え?」

「あと、この際だから言っておくと元最上位の天使てんしだ」

 さりげなく投下とうかされた爆弾発言に、思わず僕も更に絶句ぜっくする。えっと、このどう見ても幼い少年にしか見えない人が、元天使もとてんし

 びっくりしすぎて、もはや声すらげられない。そんな絶句する僕とは対照的に医者のエルさんは頭をいて照れ笑いしている。

 うん、どう見ても幼い少年にしか見えない。

 ……と、そんな事はどうでもい。

「エルさん、でしたっけ?えっと、僕のきずはあとどれくらいでなおりますか?」

「うん?もう治りましたよ?」

「……へ?」

「いや、会話かいわしている間にもう治療ちりょうは終わりましたけど?」

「……………………」

 流石天使、とでも言おうか?いや、やっぱりわけが分からない。服をめくって傷口を見てみると、其処には傷跡の痕跡こんせきが残っているだけ。本当に傷は塞がって治っているのが理解出来た。

 いや、さりげなくすげえ!

 どう考えても物理的にありえない神業かみわざだった。今のほんの僅かな間でどうやって傷を治したというのか?からないけど、それでも僕の傷が本当に治っているのは確かなようで。もはや絶句するしかない。

 そんな僕達の様子に、秀はエルさんに最大限の賛辞さんじを送っていた。

「流石はエルさんだな。かの大天使ラファエルにも匹敵するいやしの天使だっただけはあるな」

「ああ、あの子もかなり優秀ゆうしゅうな天使だったんですけどねえ。でも、神の事となると融通がかなくなるのが玉にきずでして」

「えっと、確か天使達って大体そんな風だっていたけど」

「そうなんですよね。まあ、でも僕みたいな堕天だてんして人間社会にじるような変わり種もるくらいですしね」

「はは、そんな変わり種はエルさんくらいしか俺は知らないけどな」

 そんな会話をするエルさんと秀。僕は思わず呆然としてしまっていた。

 そんな僕に、エルさんはにこやかなみを僕に向けて言った。

「聞きましたよ。君は神に反逆はんぎゃくするんですよね?」

「え?ええ、はい……」

「なら、まずはって欲しいヒトが居ます。君達のやくに立つと思うのでどうか会ってやって下さい」

「会って欲しい、ヒト……?」

 そう言って、受け取った紙切れ。それにはその人物の名前と住所がかれているのが分かった。

「えっと、名前はルーシェ?でも、この住所って……」

「はい、彼は君達の通う高校に在住教師として勤務きんむしています」

「在住教師、ですか?」

「はい、ちなみに彼も元天使です」

「……へ?」

 この爆弾発言には、僕だけではなく秀もおどろいていた。

 いや、らなかったのか?秀。

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