第18話、神眼覚醒

 ただよっている。生と死の狭間はざまをゆったりと漂っている。そう、此処は生と死の狭間なのだろう。僕は今、生と死のさかいをさまよっているのだろう。

 ゆらゆらと、ゆらゆらと、まるで水の上をたゆたうように漂っている。

 僕は思う。果たして、かみとは一体何だったのだろうか?

 全知全能ぜんちぜんのうの神。数多の天使達を従える万軍ばんぐんの主。個にして世界の全てを覆い尽くす全なるもの。様々さまざまに形容出来るが、恐らくはその全ては本質とは違うだろう。

 恐らく、アレこそが生命せいめいとしての完成形なのだろう。全ての生命が最終的に至るべき到達点。その極点きょくてんにはじまりから到達していた云わば物語におけるバグのような存在こそが神だったのだろう。

 そんな存在にてるのだろうか?勝つ、何をどうやっても必ず勝ってみせる。奴は僕を怒らせた。アキを泣かせた代償だいしょうは何をしても支払って貰う。

 どうやって勝つ?どのようにして勝つ?まっている、自分一人で勝てないなら周囲の力を借りてでも勝ちをもぎ取るまでだ。

 その為の方法ほうほうは既にある。だが、その為にはまずしておかないといけない事があるだろう。それは、この他者のクオリアを知覚ちかくする異能を真に覚醒させる事。そしてこの生と死の淵から脱する事だ。

 ゆるせない。断じて許してなるものか。アキをかせた神には必ずそれ相応の報いを受けて貰う。そう、必ずだ。

 かっている。僕にとってアキはもはやかけがえのない存在そんざいだったから。彼女一人が特別だったから。ほかの何よりも、他の誰よりも、全てを差し置いて特別だ。

 だから、彼女だけは絶対にり戻してみせる。絶対にだ。

 その為に、まずは自分の内面ないめんへとを向ける―――

 自分自身の奥へ奥へと、その最深部さいしんぶへと眼を向けていく。僕の、僕自身の原点げんてんへと眼を向けていく。

 幼少期、僕はただ一人で遊んでいる子供達をながめていた。皆、それぞれ集まって楽しそうに遊んでいる。僕一人だけ、誰にもざらずに一人じっと眺めている。

 それは決して、遊んでいる子供達に混ざりたくなかった訳ではない。逆だ。遊んでいる子供達が、とても楽しそうだったから。その子供達の放つかがやきがとても眩しかったからいつまでも眺めていたいとおもっていた。

 その頃、僕には世界が万華鏡まんげきょうのように色鮮やかに見えていた。色鮮やかで、様々に形を変えてゆく世界の姿がとてもうつくしく感じていた。

 美しかった。何時いつまでも眺めていたいと思っていた。そんな世界を、僕はこれ以上ないくらいにあいしていたんだ。

 これこそが、僕の原点。全ての始まりだった。そう、嘘偽うそいつわりのない。全ての虚飾を剥いだ僕自身の原点だ。

 それを理解した瞬間、僕の中で何かが目をますような気配がして……

 ああ、そうか。これが僕の―――

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