第17話、アキの涙

かみ、か…………」

「そうだ、はじめましてというべきか。神田かんだユウキ」

 しぼり出すような僕の声に、神は端的にこたえた。言葉一つだけで、途方もないプレッシャーを感じる。声一つだけでも並外なみはずれた力がある。

 身体が、魂があらがう事が出来ずに身動き一つれない。

 僕の異能が神のクオリアをる。だけど、何だこれは?まるで、単独ひとりで世界の全てを現わしているかのような。それでいて単独で世界の全てを覆い尽くさんばかりの巨大すぎる精神クオリアは。

 果たして、こんな生物せいぶつが存在しても良いのだろうか?分からない、分からないがそれでもこうして存在している以上は実在するのだろう。

 自然と圧倒され、思わず屈服くっぷくしそうになる。だが、渾身の意地いじで僕は膝を着く事なく神をにらみ付ける。

 ああ、分かっている。今の僕では、絶対に神にはてない。絶対にだ。

「そうにらまなくても良い。俺はお前を勧誘かんゆうしたいだけだ」

「……勧誘、だって?」

「ああ、そうだ。この世界で起きる全ては俺のの上。この世界に異能者で溢れたのも異能バトルロイヤルも全てはお前一人を生み出す為の儀式ぎしきに過ぎん」

「———っ⁉」

 神の言葉に、僕は思わず目を大きく見開みひらいた。

 全ては僕を生み出す為の儀式、だって?それは一体どういう事だ?

 僕の疑問をさっしたのか、或いは既にっていたのか。ともかく神は僕の疑問に何でもない事のようにこたえた。

「……ある時、ふと俺は思ったのだ。神たる俺の後継こうけいが欲しいと。だが、神である俺の後継たるもの全てをあるがままに俯瞰ふかんして見通す神眼しんがんが無くてはならない。それ故に意図的に生み出す事にしたのだ」

 この世界に異能者があふれたのは、その中に僕のような他者たしゃのクオリアを視る能力者が生まれる事を期待きたいして。

 異能バトルロイヤルが開催かいさいされたのは、異能者達の蟲毒こどくにより僕の異能を成長させる為に。全てはあらかじめ仕込しこまれていた事だった。

「そんな、事の為に……?」

「それが重要なのだ」

「ふざけるなっ‼」

 僕は神に向かってけ出した。天使達が各々剣をかまえる。構わない、例え僕が敗れるとしてもそれでもやらねばならない事はある。

 ……だが、神の悪辣あくらつさはそのうえを行った。そっと、溜息を吐く神———

支上しかみアキ」

「……え?」

 神が、アキのを呼んだ直後。僕の背中から胸にかけて何かがつらぬいた。それは日本刀の刃だった。その刃を、僕はっている。いや、それを僕は以前見た事がある筈だろう。何故なら、それは……

 その刃は……

「ア、キ……?」

「……………………」

 振り返る。其処に居たのは、全ての色彩いろを失ったうつろな瞳をしたアキだった。

 何で?アキが、どうして?いや、そう言えばさっきからどうしてアキは一言もしゃべらなかったんだ?どうしてそんな無感情なをしているんだ?

 分からない。分からないけど、アキが僕をしたその事実が僕へ押し寄せる。

 心が、きしむ。だけど……

 瞬間、僕の目に映った。アキの目から涙がにじんでいるのを……

 馬鹿だな。そんな訳ないじゃないか。例え、出会であってそれほど時間があった訳じゃなくてもあの日々は決してうそなんかじゃない。

 何とか、身体に刺さった刃を引ききアキと向かい合う。相変わらず、アキは虚ろな瞳をしている。全ての色彩がうしなわれた瞳。だけど、そんな瞳からでも涙が滲んでいるのが理解出来る。

「……アキ、ごめん。君にそんなくるしい想いをさせて。つらいよな。苦しいよな。でもきっと僕がすくってみせるから。だから、」

 ———必ず、其処そこで待っていてくれ。

 その瞬間、僕の意識は閉ざされて。そのまま暗転あんてんした。

 この日、僕は神に致命的な敗北はいぼくをした。

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