第16話、約束と対面

 僕とアキは絶句ぜっくしていた。そう、全ては神を名乗る何者かのの上だった。果たして今の剛三さんの心境しんきょうは一体どれほどのものか?

 分からないが、決して愉快ゆかいではないだろう。事実、彼の内心ないしんからは悲痛と苦悩が見て取れるからだ。それもまた、やはり異能いのうでしか判断できない自分がふがいないとは思っているけど。

「全て無駄むだだった。無意味むいみだった。妻の為に何かしたかった、その感情すらも神の掌の上でしかない。何てふがいない、おろかな……」

 気付けば、剛三さんの目からは一滴の涙がこぼれ落ちていた。

 あまりのくやしさに、涙をながすしかないのだろう。僕自身、どうすれば良いのか分からないけど。

 けど、それでも―――

「それは、ちがいます」

「…………何?」

つまの為に何かをしたいと思った剛三さんのおもいは、妻の想いを踏みにじられ怒りを燃やす剛三さんの想いはけっして無駄でも無意味でもありません」

「……………………」

 剛三さんの想いは決して無駄でも無意味でもない。そんな事、僕がさせない。

 そっと、剛三さんの手をにぎり締める。その手には、いろんな想いが込められている筈だ。妻の想い。アキの想い、秀の想い、あらゆる異能者達の想い。そして、他でもない剛三さん自身の想いが籠められている。

 だから、その想いを無駄にしない為にも。無意味にしない為にも。僕は此処で一つの約束をちかう。

 他でもない、剛三さんとアキと僕自身に誓う。

「剛三さんの想いも、その奥さんの想いも、決して無駄なんかじゃありません。無意味でもありません。その想いは他でもない貴方達のものです。それを、僕が証明してみせます」

「どう、やって……?」

「僕が、その想いを全てかみにぶつけてみせます」

 真っ直ぐと、剛三さんの目を見ながらげる。その言葉に剛三さんはようやく安心したのかふっと力強いみを浮かべて……

「ありがとう、君がアキの彼氏かれしでいてくれて本当にかった……」

 そう言って、ようやく安堵あんどしたのかその手から力が抜けていった。どうやら安心して眠気が勝ったらしい。そのままねむってしまった。

 僕達は集中治療室をる。その際、僕もアキもそれぞれ剛三さんに約束をした。

 ———必ずだ。必ず、僕達は神にこの想いをぶつけてみせる。

 剛三さんの想いを、その妻であるフユさんの想いを無駄むいみにしない為に。

 決して。

 ・・・ ・・・ ・・・

 だが、そう事は上手くはこばなかった。

「「⁉」」

 僕とアキは、気付けば純白と空の青がひろがる空間に立っていた。其処には僕とアキの他に膨大な数の天使達とその奥の玉座ぎょくざに座す青年がた。

 純白の頭髪に、黄金のをした青年。何故か一目で理解出来た。

 ああ、彼こそがかみだ。と……

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