第15話、母の嘆き

 支上アキの母、支上しかみフユ。彼女はとてもあかるくて大らかな女性だったという。

 ———世界せかいはきっと、神様のあいに満ち溢れている。だから、私達はこれからも幸せに生きていける筈よ。

 そう、口癖くちぐせのように言うような人だったという。とても信心深くて、愛情の深い女性だったという。

 そんな彼女だからこそ、夫である剛三さんも二人の娘であるアキも困難こんなんを乗り越えて生きていく勇気ゆうきを育む事が出来たのだろう。何よりも、そんな彼女に勇気付けられてきたのは剛三さんだったのだから。

 ———ああ、きっとこれからも俺達はやっていける。きっと、これからも幸せに過ごしていける筈だ。

 そう、信じていた。なのに……

 ある日を境に、支上フユは思いなやむようになったという。思い悩み、笑顔を見せなくなっていったのだという。どうしてそうなったのだろうか?何も分からないままに剛三さんもアキも困惑していた。

 けど、ある日の晩。剛三さんは見てしまったのだという。妻のフユが、一人でこっそりと涙を流しいている姿を。

 剛三さんは仰天ぎょうてんした。仰天のあまり、妻をい詰めたのだという。

 問い詰める剛三さんに、彼女は言った。どうやら、ある日空から天使がりてきて神託をげて去っていったらしい。

 天使が告げた神託、それは衝撃的な内容だった。

 ———お前達の娘はを通してしか世界を見れない。死の異能いのうを宿して生まれてきたのだから。だが、それは決して異常いじょうなどではない。全て神の思し召しである。

 そして、天使はこうも言っていたという。

 ———この世界に神の意思いしが介在しない事象じしょうは存在しない。お前達の今後味わうであろう苦痛も、苦悩も、全ては神の意思である。

 そう天使は言って去っていったのだという。それをいた支上フユは絶望したのだという。今までの人生で、初めて神をのろったのだという。

 ―――何故、神は私達のむすめにこんなものをし付けたのか!どうして私達の娘がこんな目にわなければならないのか!

 そう、絶望に涙していた。そんな彼女のなげきを聞き、剛三さんは妻であるフユの手を握り締めて約束やくそくした。

 ―――約束しよう。お前の嘆きを必ずやつにぶつけてみせると。そして、俺達の娘を異能から解放かいほうしてみせると。いや、むすめだけではない。この世界に居る筈の異能に振り回される者達を、俺の手で解放してみせる。

 そう、剛三さんは真っ直ぐに妻の目を見ながら宣言せんげんしたという。

 そんな夫の姿を見て、妻の支上フユはようやく安心したのか満面の笑みを浮かべたのだという。だけど……

 以降、支上フユは体調をくずしてしまった。どうやら、神が何かを仕組んだらしく妻はもう余命幾ばくもない状況だった。

 妻の手を握り締める剛三さんを前に、支上フユは最期さいごにこう言い残したという。

 ―――ありがとう、貴方とアキに出会えて本当にしあわせだったわ。

 それだけ言い残して、この世を去った妻。剛三さんはそれ以降、復讐ふくしゅうを心に誓い全てを投げうって神をつ事を誓ったという。

 だが、

 ・・・ ・・・ ・・・

 話はまだわらない。

 それから時はぎ去り、異能バトルロイヤルを運営うんえいする中。娘が彼氏を連れてくると連絡があった。

 少しだけ、楽しみに思っていた剛三さんだった。そんな剛三さんのそばでいつも通り控える海老原秀。

 だが、そんな時だった。玄関口の方からさわがしい声があったのは。

 天使てんしの襲撃だった。襲撃する天使を相手に、人間の……それも無能力者であるSPでは全く歯が立たず悪戯に死体をみ重ねる結果となった。

 そして、ついに天使と対面する剛三さん。にくしみの目を向ける剛三さんを相手に天使は言った。

 ———お前は本当にくやってくれた。お前の今までやってきた行動こうどうは全て、神の意思に忠実に沿うものである。

 その言葉を聞き、剛三さんは耳をうたがったのだという。つまり、自分の復讐心すら神の掌の上だったのだ。

 自分がやってきた全てが、神からすればるに足りない事。そうと知った剛三さんは心がれて―――

 その直後、天使の振るった剣により意識が暗転あんてんした。

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