第14話、父と娘

「お、とうさん……」

「ああ、アキ。こうして……顔をわせるのは、ひさしぶりか……」

 集中治療室のベッドには、支上剛三さんがおだやかな笑顔で横たわっていた。だがやはりこうして話しているのもくるしいのだろう、額には玉のようなあせが。だが、それでも剛三さんは穏やかな笑顔を浮かべている。その笑顔は決して偽りではない。

 それは、単純に娘との会話をたのしむ親のじょうというモノだろう。こうして向き合っているだけでそんな彼の心情こころが読み取れる。

 そう、読み取れる。僕が今、こうして剛三さんとき合っているだけで剛三さんの気持ちが理解出来るのは僕の異能いのうが機能しているからだ。

 それは、果たして幸なのか不幸なのか……?

 アキは、涙をながしながら父親の手をる。

「お父さん、私はお父さんが大変たいへんだった時に何も出来なかった。お母さんがくなってお父さんがくるしんでいる筈だったのに、そんな中で私は何も―――」

 アキの言葉に、剛三さんは苦笑を浮かべながら首をよこに振る。

 娘の頬を伝う涙を指でぬぐいながら、優しいみを浮かべ言った。

「それはちがう。あいつが亡くなって、俺が神への復讐ふくしゅうを誓ったのは俺の弱さが原因だったんだ。俺がもっと強ければ、もっと自分をりっする事が出来たなら神の手の平で踊らされこんな事態じたいにまで発展する事は無かった」

「……?それは、どういう事?」

 アキの問いに、剛三さんはこたえる事なく僕の方を見た。僕を見るその目は、娘の連れてきた彼氏に対する複雑ふくざつな感情が読み取れる。

 ああ、そうか。剛三さんは僕を娘の彼氏かれしだと既にみとめているのか。けど、それでもきっと内心ないしんでは複雑なのだろう。

 それもそうだろう。アキは剛三さんにとって大切なむすめなのだから。その彼氏と認めていても、納得なっとくは出来ないだろう。

「君が、神田ユウキ君だね……?」

「はい、僕が神田ユウキです。娘さんとはつい最近さいきんからですがお付き合いさせて貰っています」

「そう、か。どうして……かな。この前までは君の事を……娘にり付く、悪い虫のように、思っていたのに。こうして……君にってみると、そんな感情が何処どこかへ消えていっ……たよ」

「そう、ですか。僕は剛三さんに罵倒ばとうされる覚悟で会うつもりだったんですが」

「そう、か……」

 僕の言葉に、剛三さんはやはり苦笑くしょうを浮かべる。

 やはり、剛三さんはやさしい人なのだろう。娘の彼氏である僕に、一切罵倒を浴びせる事をしない。それは、やはり今はよわっているからというのもあるだろうけど。

 それでも、剛三さん自身の優しさというのももちろんあるのだろう。

「全てがわったら。傷が完治して、無事退院したらあらためて話し合いましょう。もっと話し合うべきだと思います」

「ああ、そう……だな。それより、お前達に話すべき……事が、ある」

「話すべき、こと?」

 い返す僕に、剛三さんはうなずいた。

「アキ、お前の母さんの死の真相しんそう。そして、神との因縁いんねんの話だ」

 そして、剛三さんは話し始めた。自身の過去かこを。そして、全ての真実を。

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