第13話、海老原秀の理由と目的

 病院にいた僕達が院内に入ると、其処にはつえを突き、片腕をギプスで固めた上に頭に包帯を巻いた海老原秀の姿すがたがあった。どうやら僕達を待っていたらしい、僕達の姿を確認すると苦笑くしょうを向けた。

 どう見ても安静あんせいにしなければいけないくらいに重傷だ。にも拘らず、この男は一体何をしているのだろうか?

「……秀、お前もう平気へいきなのか?寝てなきゃ駄目だめじゃないか」

大丈夫だいじょうぶだ、俺はな。それよりも大変たいへんなのは剛三さんの方だよ。今、剛三さんは集中治療室にる」

 秀の言葉に、アキは思わずと言った様子で息をんだ。その瞳は不安そうにれているのが分かる。

 やはり、不安なものは不安なのだろう。どれほど強がった所で、彼女はまだ少女なのだから。本来ならもっと親にたよっても良い筈の年齢の筈だ。

 そっと、アキの肩をく。そんな僕に彼女はそっと肩を寄せてくる。

 そんな僕達に気を使ったのだろう、秋山さんが苦笑しながら言った。

「……そうだな、俺は今から面会証めんかいしょうを貰ってくるよ」

「ああ、はい。おねがいします」

 そう言って去って行く秋山さんを、じっと秀は見ている。

「警察官、か……随分とわり者のようだな?」

「ああ、まあい人ではあるんだけどな?」

「まあそのようだな、少なくとも俺達異能者に対して偏見へんけんを持つような人間じゃないだろうとはおもう」

 そうして、しばらくしてもどってきた秋山さんがってきた面会証を僕とアキはそれぞれ礼を言ってけ取った。

 そうして、秀の案内あんないで集中治療室の前まであるいていく。

 集中治療室の前、ソファに座る秀の隣に僕はすわる。さて、何を話したものか。話したい事はもちろんある。しかし、それでもどう話したものなのか。どうり出したものなのか分からない。

 そんな僕の気持ちをんだのだろう。秀が話し始めた。

「……ユキ、お前のきたい事は分かっている。だから、此処から俺が話すのはあくまで俺のひとり言だと判断してくれ」

「……………………ああ、かった」

「俺と俺の一族は、代々サトリと呼ばれる一族いちぞくだった。サトリというのは飛騨ひだの辺りに住む心を読む妖怪ようかいの事だ」

「……………………」

 妖怪。つまり、秀の一族は代々妖怪と周囲しゅういから呼ばれていたという事か。

「俺達の一族は、代々心を読む異能いのうを持っていたが故に人間として認められる事は無かった。あいつ等は人間ヒトじゃない、人の心を読む妖怪バケモノに違いないと。俺達は迫害を受けてひっそりと山奥にむしかなかった」

「…………っ」

 見れば、アキの表情は蒼褪あおざめている。秋山さんの表情もいとは言えなかった。

 人が人を迫害はくがいする時、最も都合が良い方法は相手をひとと認めない事だという。相手は人間じゃない、人の姿をした化け物だ。故に、我々こそが正義せいぎでありどれほど痛めつけ奪おうともゆるされると。

 中々ふざけた話だが、恐らくそれこそが人間という種のごうなのだろう。

「俺達も、そんな中できてきたからだろうな。相手の心をむ能力を無くして他者と接する事が怖くなったんだ。相手の心がからないと不安なんだよ」

「そう、か……」

「ああ、そしてそんな中俺と母さんの前にあらわれたのが支上剛三さんだった。剛三さんは俺達サトリの一族を一切見下す事もせず、あわれむ事もせず、ただ俺達に手を差し伸べてくれたんだ」

「それが、秀が剛三さんにおんを感じる理由りゆうか?」

「ああ、いた話によると剛三さんも剛三さんで理由があったらしい。彼は言っていたんだ。俺達が異能に振り回される事なく自由じゆうに過ごせる世界を創りたいと、だからこそその元凶たるかみこそ討たねばならないのだと」

 神。やはり、其処そこがキーワードになるのだろう。どうして、異能バトルロイヤルは開催されたのだろうか?どうして、僕達にこんな異能いのうが宿ったのだろうか?

 その全ての理由りゆうが、其処にある気がする。

 そして、其処まで話した直後だった。集中治療室から一人の看護婦かんごふが出てくる。

「……患者が目をまされました。まだ予断よだんを許さない状況なので、入るのは二人までとさせて下さい」

 僕達は互いに視線をわす。

 そんな僕達に、秋山さんが言った。

「なら、お前達二人がって来い。俺は此処ここで待っている」

「良いんですか?秋山さんには仕事しごとがあるんでしょう?」

「俺はこいつから間接的に話しを聞く事にするさ。それよりお前達が行くべきだ」

「……ありがとうございます」

 そう言って、僕とアキは集中治療室へとはいっていった。

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