第12話、黒い噂

 結局、事情聴取から解放かいほうされたのは次の日のあさだった。僕達が警察署を出たのはもう朝の07:00を過ぎたころだった。

「アキ、今からどうする?」

「どうするって、病院びょういんに行くに決まってるでしょう?父さんの容態ようだいが心配だもの」

「……うん、やっぱりそうだよね」

 そう言って、僕達はタクシーをぼうとスマートホンを出そうとした。その瞬間だった、一人の警察官が声をけてきた。

 彼の事は知っている。僕の事情聴取の担当だった警察官。確か、名前は秋山あきやま金治きんじと言っただろうか?

「よう、これからお前達は病院びょういんか?」

「……そうですが、秋山さんでしたっけ?何かようで?」

「ああ、俺もこれから病院に用事ようじでな。支上都市長に直接話をいてくるように上から命令めいれいされてな」

「……はあ、まあ貴方も大変たいへんですね?」

「まあ、そこそこな」

 僕の言葉に、秋山さんは苦笑くしょうを浮かべた。

「まあ、話も何だ。病院に行くなら俺の車にっていくか?」

「良いんですか?」

かまわねえよ、どうせ行き先は同じなんだ」

 そうして、僕達は秋山さんの車に同乗どうじょうする事になった。秋山さんの車は白塗しろぬりのポルシェだった。

 ・・・ ・・・ ・・・

 そして、道中。秋山さんは車を運転しながら僕達にはなし掛けてきた。

「ところでよ、お前達は支上都市長の黒いうわさについて何か知っているか?」

「黒い噂、ですか?」

「ああ、其処までメジャーな噂じゃないけどな。支上都市長がうらで黒魔術だの降霊術だのに傾倒けいとうしているって噂がながれていてな。今回の一件も、それが関係しているんじゃないかって噂が流れているんだよ」

「……そんな噂が」

 どうやら、今回の一件は一筋縄ではいかない事情じじょうがあるらしい。

 なら、やはり今回は大人の力をりるのもアリだろうか?ちらりと、アキの方を見てみる。アキも、僕の方をじっと見てうなずいた。

 うん、少し不安要素もあるけど。仕方しかたがない。

「秋山さん、これからはなす事はどうか内密ないみつに願えないでしょうか?」

「うん?何かあるのか?」

「……はい、実は支上剛三さんの側近そっきんをしていた友達ともだちから聞いた話ですけど。どうも剛三さんは特定の誰かに強い復讐心ふくしゅうしんを抱いていたようです」

「復讐心、だって?」

「はい、そしてその相手を剛三さんと友達はかみと呼んでいたようです。これが何の意味なのかはからないですが、昨夜剛三さんの自宅で見た何者かは背中から翼を生やした異形いぎょうの姿をしていました」

「…………それは、お前達の見た幻覚げんかくではなく?」

「はい、間違いなくこの目で見た現実げんじつでした」

 僕の言葉に、秋山さんはしばらくだまり込む。だが、頭を左右に振るとにわかに信じがたいとばかりに愚痴ぐちった。

「にわかに信じがたい話だが、何だそのオカルトは?」

「先程も言った話ですが、この話は―――」

「ああ、分かっているよ。内密ないみつにだろ?どうせこんな話、上はしんじちゃくれんさ」

「すみません」

「別に良いって、それより他に何かかくしている話は無いか?」

「……はい、後はその話に関連かんれんする話ですが。剛三さんはどうも復讐の為に超能力者や異能力者などの特殊とくしゅな才能を持つ人間をあつめていたようです」

「特殊な才能?」

「はい、僕もそうなんですが。集めた特殊な能力を持つ人間たちで剛三さんは何かを考えていたようなんです」

「そう、か……お前も特殊な才能があると言っていたけど。それはえるか?」

「…………………………」

「言えないか?」

「いえ、言います。僕の才能、それは他人の感覚や感情をその質感しつかんまでも認識して知覚する事です」

「……何だって?」

「ですから、僕は他人ヒトの感覚や感情をリアルにかんじる事が出来る特異体質なんです」

「……………………」

 思わず、絶句ぜっくしたという風にだまり込む秋山さん。くそっ、だから僕の話はあんまりしたくなかったんだ。

 だが、しばらくしたら秋山さんから一つだけ質問しつもんをされた。

「……という事は、今俺の感じている感情かんじょうもリアルタイムでかっているという事だよな?」

「はい、そうですね」

「そう、か……そうか……」

 黙り込んだまま、秋山さんは何もはなさなくなった。どういう訳か、秋山さんの心からは不気味さや気持ちの悪さよりも寂しさやかなしさを感じた。

 アキは、僕の手をぎゅっと握り僕をはげましてくれている。大丈夫、私が居るとアキは僕に頷いてくれた。それが、とても心強こころづよかった。

 ……それからしばらくして、病院にいた。

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