第11話、急展開

 そして、夜の8:00をぎた。僕とアキは互いにうなずき合い、アパートを出る。

 既に空は暗く、街は街灯がいとうに照らされている。だが、それでもこの街は既に異能バトルロイヤルの舞台ぶたいと化している。異能者いのうしゃによる戦いの舞台だ。

 既に、この街は戦場せんじょうだ。だからこそ、決して油断ゆだんだけはしてはいけない。敵影はすぐ傍にまでちかづいているのだから。

 事実———

「がっ⁉」

 物陰ものかげから飛び出してきた男が、アキの抜刀ばっとうによってその手に持った金棒ごと断ち切られた。とは言っても別に男は死んだ訳ではない。びくんびくんと痙攣けいれんこそしているものの、普通に生きている。

 僕のた所、どうやら男は手から金棒を出す異能を持っているらしい。その異能で不意打ちをするつもりだったようだ。

 とはいえ、僕達に不意打ちは通用しないけど。そのまま僕達はその場を去った。

 向かう先はこの人工島じんこうとう、アメノトリフネのおさ。支上剛三の自宅だ。

 既に向こうにはアキから連絡れんらくを入れている。僕からも、既に秀へ連絡を入れ全ての準備を整え終えている。後は、支上剛三との対話にのぞむだけ。此処で、全ての決着を付けるだけ。その、筈だ。

 だが、妙に嫌な予感がするのは気のせいだろうか?何か嫌な予感がする。

 気を引き締め直さないと。そう思い、僕はきゅっと口をむすんだ。

「……大丈夫だよ、大丈夫。ユウキは私がまもる」

「…………うん、ありがとう」

 そんな僕を気遣きづかって、アキはそっと僕の手に指をからませてきた。僕も、そんな彼女の指に自分の指を絡ませる。

 気を抜かないよう、しっかりと引き締め直そう。大丈夫、僕にはアキが居る。きっと何とかなるさ。そう、信じて。

 ……支上剛三の自宅はアメノトリフネの中央区ちゅうおうくにある。中央区にはアメノトリフネの執政機関が集中しゅうちゅうしている。云わば、アメノトリフネの中枢ちゅうすうだ。

 それ故に、中央区に入るには独自のパスコードが必要ひつようになる。しかし、僕達は既に支上剛三本人からアポイントをっている。故に、パスコードを確認する作業を省略して検問けんもんを素通りする事が出来た。

 アキは僕を連れてそのままぐんぐんすすんでいく。支上剛三の自宅を知らない僕はその背中に付いていくだけだ。

 ……執政機関の建物がならぶ中央区。その街中を歩いていく僕達。やがて、一軒の住宅に辿り着いた。

 そこそこ大きな住宅。だが、見た目はそれほど高級こうきゅうそうには見えない。だが、表札には間違いなく支上しかみと名がきざまれていた。

 間違まちがいない。此処が、支上剛三の自宅だ。

 ドアの前にあるインターホンをす。インターホン独特の音がり響く。

 ……だが、しばらく待っても何の反応はんのうもない。不審ふしんに思い、もう一度インターホンを鳴らす。だが、やはりしばらく待っても反応がない。少し、不気味ぶきみな気配が漂ってくるのを感じる。

「……なあ、アキ?」

「…………」

 僕の言葉にアキは何も答えない。だが、その額からはや汗が流れ落ちているのが理解出来る。どうやら、アキも不気味さを感じているようだ。

 もう一度、インターホンをらす。だが、やはり反応はない。ついに、ドアを直接ドンドンとたたく。だが、やはり反応がい。反応が無い。反応が無い。

「アキ……」

「ええ、此処ここは無理矢理入りましょう」

 言って、アキは抜刀。自宅のドアをり刻む。バラバラに切り刻まれたドアはそのまま自重に従って崩れ落ちる。直後、僕達は驚愕した。

 家の中は滅茶苦茶にらされていた。それも、ただ荒らされていたのではなく血の赤と大勢の屍が乱雑にころがっていた。その光景に、思わず僕は吐き気すら覚えるほどの嫌悪感をいだく。

 それは、どうやらアキも同じようだ。愕然としたまま、わなわなとふるえている。

 けど、呆然としている場合ではない。これは明らかに異常事態だ。

「アキ、これはあきらかに異常事態だ!入るぞ!」

「……っ、ええ!そ、そうね!」

 そうして、家の中に入る。家の奥に進めば進む程、血の赤は濃くなってゆくのが理解出来る。これは、流石にマズイ。

「っ、剛三さん!支上剛三さんはるか‼居たら返事へんじをしてくれ‼」

「っ、るな!ユキ、来るんじゃない‼」

 しかし、聞こえてきた声は支上剛三のものではなかった。その先から聞こえてきたのは秀の声だ。だが、僕は確信した。その先に支上剛三と海老原秀が居ると。

 ドアをり破って、僕は部屋へやの中へと入っていく。その先に居たのは、既に満身創痍の支上剛三とその前に立ち、彼をまもるように立つ傷だらけの秀だった。

 そして、彼の前には背中から一対の翼を生やした純白の衣をまとう天使。

 どうやら、支上剛三宅を襲撃したのはこの天使らしい。その手には一振りの剣が握られているのが分かる。それを見た僕は、言い知れぬ感情がき上がる。

「ああ、あああ…………ああああああああっ‼」

 湧き上がる感情のまま、僕は天使になぐり掛かる。だが、天使は無感情のまま僕の拳を最小限の動作でける。

 そして、天使は何も言わないままその姿をした。

 その場には、僕達と血だまりに倒れる支上剛三と海老原秀が居るだけだった。

 その後、僕達の通報つうほうにより駆け付けた救急車により支上剛三と海老原秀は病院へと緊急搬送されていった。

 僕とアキは、重要参考人として警察けいさつに行く事となった。

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