第10話、デート

 アキに食われた。うん、かなりすごかった……

 何がとはわない。其処はさっして欲しい。

 途中から僕自身、全く歯止はどめが利かなかった。うん、僕はかなり反省はんせいした方が良いのだろうと思う。どうしよう、コレ?もしもの場合、僕が責任を取ると言ってもたぶんそれじゃあまないんだろうな。

 傍には満足そうに衣服いふくを着ているアキの姿が。じっとアキを見ていると、それに気付いたアキが薄く微笑んできた。少しだけ、胸の奥がうずく。

「……なあ、アキ」

「ん、なあに?」

「アキは本当にいのか?僕とこんな事をした以上、もっと気にするべき事がある筈だろう?父親ちちおやの事とか……」

 父親。その言葉に、アキは表情をかたくした。アキだって分かっている筈だ。本当はこんな事をしている場合じゃないくらい。

 でも、それでもこんな事をするのはきっと逃避とうひに違いない。それだけ初めての恋にうつつを抜かしているのは分かる。けど、今はきっとそんな事をしているひまなんか一切無かった筈だ。

 にもかかわらず、それをしていたという事は―――

「やっぱり、一度話し合わないといけないかな?」

 ぽつりと呟くアキのこえには、漠然とした不安ふあんがあった。

 話し合うのがこわい。というよりも、ただ単純に今更それとかい合うのが怖いのだろうと思う。今まで向き合ってこなかった、そのツケだろう。

 そんなアキの不安そうな顔。そんな彼女に一体何ができるだろうか?

 けど、何かしたい。そう思ったから……

「なあ、アキ。これから一緒いっしょにデートしようか」

「……へ?」

「僕と一緒にデートをしよう。今日は学校もやすみだし、いっその事今日一日は一緒に遊ぼうか」

 そう言って、アキへ手を差しべる。そんな僕をまっすぐ見ながら、アキはほんのりと頬をあかく染めてぼんやりと見ている。

 けど、やがてはっと正気に戻ると困惑こんわくしたようにわたわたと慌てる。

「で、ででで……デート?それって……あうっ」

「……何をかんがえているのかは分からないけど、至って健全けんぜんなデートだからな?」

「あうぅっ……」

 しゅんとするアキを、思わずき締めたい衝動にられる。けど、僕はそれを誤魔化すように苦笑くしょうを浮かべる。

 ・・・ ・・・ ・・・

「そう言えば、思ったんだけどさ。アキはこれからどうするんだ?」

「どうって?」

 街を歩きながら、僕はさりげない雰囲気ふんいきを出しながらく。

「いや、流石にこのまま僕と一緒にみ続ける訳にはいかないだろう?そんなただれた生活をしていたら、流石に大問題だいもんだいだろうに」

「……ユウキは、責任せきにんを取ってくれないの?」

「いや、もしもの時は責任くらいるさ。けど、問題なのは僕の責任以上の事が起きた場合だよ」

「…………」

 僕達はまだ子供だ。出来る事だって、ごくごくかぎられている。

 だからこそ、責任を追及ついきゅうされても何も出来ない場合がおおいだろう。例え、僕に責任を取る覚悟かくごがあったとしてもだ。

「もしもの場合、僕一人が責任を取ってもりない場合がある」

「……むぅっ」

 そっと、不機嫌そうな顔でアキは僕の肩に身をせてきた。そっと指をからめるように手を握ってくる。そんな彼女に、僕も指を絡める。

 ……少し、周囲からの視線がいたい。けど、この際だからいっその事気にしないでおく事にする。

「……勘違かんちがいしないで欲しいけど、僕はアキの事が大好だいすきだよ?」

「私も……私だって、ユウキの事が大好き」

 そう言って、僕達はまちを歩き続ける。そんな、たわいのない時間。

 ……うん、そうだな。

「やっぱり、此処ここは少しくらい気をかせた方が良いかもな」

「?」

「いや、別に。じゃあ、其処の喫茶店きっさてんで昼食でも済まそうか」

「……?うん」

 そして、僕とアキは喫茶店のテーブル席へとすわった。敢えて、隅っこにある一番目立ちにくい席をえらんだ。

 改めて、アキとき合う。僕の雰囲気を察したアキは僅かに身構みがまえる。

「……改めて言うよ。アキ、僕はアキの事が大好きだ」

「うん、私もユウキの事が大好きだよ?」

「……ああ、でもアキは僕がどれくらいアキの事が大好きなのかを理解りかいしていないと思う。だから、いっその事此処で言ってしまおうと思う」

「……うん」

 僕は、すうっと僅かに深呼吸しんこきゅうをする。そして、真っ直ぐアキを見据みすえる。

 アキも、僕を真っ直ぐに見ている。大丈夫だ、きっと僕のおもいはアキに伝わる。

 そう、しんじている。

「アキ、僕は君の事が大好きだ。もしもの時は、アキと一緒にこの人工島じんこうとうを出て駆け落ちしても良いとすら思っている」

「———っ⁉」

「けど、それじゃあ駄目だめなんだ。僕は、アキとの関係を君の父親ちちおやにも認めて欲しいと思っている。僕は、しっかりとした上でアキとの関係をきずきたいんだよ。その為に君の父親と一度話し合う必要ひつようがあると思っている」

「……う、ん」

「アキ、色々と順序じゅんじょが滅茶苦茶になったけど。それでもわせて欲しい。君の事が大好きだ、あいしている」

「うん、私も……私だって、ユウキの事が大好きよ……大好きっ……」

 そうして、れて僕とアキは恋人こいびと同士になった。

 この席は喫茶店のすみっこの席だ。だから、一番目立ちにくい席でもある。だけどそれでもやはり目立ってしまうらしい。少し、いやかなり視線がいたい。

 ・・・ ・・・ ・・・

 その後、人工島アメノトリフネにおいてこの喫茶店の隅っこの席は恋人の聖地せいちとして知られる事となる。

 だが、それは神田ユウキと支上アキにとって知るよしのい話だった。

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