閑話、父親としての情

 時間は遡って、昨夜さくや。アメノトリフネの都市を統べるおさ、支上剛三の自宅。その書斎に代行者メッセンジャーこと海老原秀は来ていた。

「帰ったか。どうした?ずいぶんと不満ふまんそうだな?」

「……剛三さんでしょう?むすめに俺達の居場所をおしえたのは」

「ああ、そうだ。それで?言いたい事はあるか?」

「……………………いえ」

 正直、不満はあっただろう。だが、敢えて秀はそれを言わなかった。例え、支上アキの妨害があろうとなかろうと関係かんけいない。それでも海老原秀の、いや。代行者として自分のする事はわらない。

 支上剛三の復讐ふくしゅう完遂かんすいする。その為にもこの異能バトルロイヤルを何としても完全に成し遂げる。そして、神田ユウキを確実に自陣じじんへと引き入れる。

 全ては、かつて支上剛三から受けたおんを返す為に。

 そして―――もう二度と自分のような異能に振り回される者を生み出さぬ為。

「で、だ。お前が其処そこまで気に入る神田かんだユウキはどんな奴だ?」

「はい、一言で言えば馬鹿ばかですね」

「ふむ?馬鹿とは……」

「ええ、馬鹿なくらいに愚直ぐちょくで。他人ひとの事をしっかりと見ていて。自分よりも他人を思いやれる馬鹿ですね」

 それは、一見して神田ユウキをけなしているようでいて何よりも彼の事を評価ひょうかしている言葉だった。他人をしっかりと見ていて、自分よりも他人を思いやれる、だからこそもしもの時は他人の為に動く事が出来る勇気ゆうきある者。

 それが分かっているからこそ、秀はユウキを自陣みかたへと引き入れたいのだ。

 彼を敵にまわしたくないし、味方にしておきたい。それは、単純に彼に対して友情を感じているが故にだ。単純な話、彼の事をかけがえのない友達ともだちだと認めているからこそ敵にしたくないし味方にしたいと思っている。

 そして、その事実は支上剛三とて深く理解りかいしていた。けど、

「……ああ、それがかっていてもどうしてかな。自分の娘が自分の知らない所で男と一緒にらしていると知ると、こう気が気でないのは」

「それが父親としてのじょうでしょう?例え、どれほど放任ほうにんしていたとしても自分の娘である事にはわりない筈ですから」

 困り果てた剛三の言葉に、秀は端的にこたえる。

 その言葉に、剛三は納得なっとくしたように苦笑した。

「……ああ、そうか。そうかもな」

「それより、今は異能バトルロイヤルの運営うんえいに関する事柄が先決でしょう?全ては憎き怨敵である神への復讐の為に、このゲームを遂行すいこうしましょう」

「ああ、もう二度と神の敷いたレールの上で不幸ふこうな目に会う者が居ないよう。その為にも憎き神を打倒だとうする」

 こうして、あらためて支上剛三と海老原秀は覚悟かくごを決める。全ては、もう二度と神の敷いた運命の為に不幸ふこうが出ない為にも。

 全ては、あまねく自由意志じゆういしの為に……

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