第9話、はじめての恋心

 ともかく!まずは状況を整理せいりしよう。

 昨日の晩、僕は秀との喧嘩に敗北はいぼくした。けど、意識をうしなう直前アキが助けに入っていたのを覚えている。なら、きっと自宅までアキがはこんでくれたのだろう。

 秀は僕と喧嘩けんかする理由はあれど、アキとはい筈だ。だったら、恐らくだけどそのまま秀はあの後すぐに撤退てったいしたんだと思う。

 うん、其処まではい。其処までは普通にかる。けど、ならこれは一体何だ?

 改めて見る。僕の腕にき付いて、アキがぐっすりとている。下着は何故かパンツ一枚だけで、上にはワイシャツ一枚を全開ぜんかいにして来ているのみ。下手をすれば胸元の大事な部分がえてしまいそうだ。

 ぎゅうっと僕の腕に抱き付いているせいか、胸が押しつぶされて変形する様はとても官能的でなまめかしい。素直に言おう、少し興奮こうふんしている。

 改めて考える。どうしてこうなっているんだ?たして、こんな状況になる要素が今までにあっただろうか?少しばかり、混乱こんらんしてくる。

 じゃなくてっ‼

「ああ、くそっ!アキ?アキ!ちょっ、何でほぼはだかなんだ!きて、アキ!」

「ぅ、んぅう……ん~?」

 か、かわいい。っ、じゃなくて‼

「ああもうっ!ほら、早く目をまして!っていうか何で裸⁉」

「ん~~~っ……」

 しばらくして、ようやく目を覚ましたアキ。何とかアキを説得せっとくして、ようやくアキに衣服を着て貰った。衣服をる際、ほんの僅かに見えたアキの頬は少しばかり赤かったのを覚えている。顔を赤くするくらいなら、どうして裸になるのだろう?

 分からないけど、きっとアキなりの深い理由りゆうがあったのだろう。

 ともかく、今からそれをく事にしよう。それにしても、あぶなかった。危うく理性が飛んでしまう所だった。ギリギリの所でえた僕の理性を我ながら褒めてやりたい所だと思う。

 うん、そうこうしている内に、ようやく着替えわったようだ。アキが僕の方へ向き直った。その顔は、やはりほんのりと赤い。

「で、どうしてアキはあんなほとんど裸の状態で僕に抱き付いてていたんだ?もしかしてだけど、アキはあんな姿すがたで何かを抱き締めて寝るくせがあるのか?」

「……別に、そんな訳じゃないけど」

「じゃあ、どうして?」

「…………ユウキを、誘惑ゆうわくしようと」

「……………………」

 思わずだまり込んだ。いや、えっと。どういう事なんだ?ゆうわく?え?誘惑?

 えっと、何がどういう事なのかよく分からない。

 そんな僕に、そっと抱き付くように身体をせてきて。アキは僕のすぐ目と鼻の先に顔を寄せた。いや、ちかい近い。近いですよ、アキさん?

「……てだった、」

「……え?」

「はじめてだったの、ユウキが」

「……えっと、何が?」

 えっと、どういう事?はじめてって何が?え?僕はアキと一体何をしたの?

「はじめてだった。私が此処ここまで一人を相手に好意こういを抱くなんて。だから、責任を取って欲しいの」

「……えっと?それってつまり、」

「…………私と、付き合って」

「……う、うん」

 思わずつぶやいた言葉に、アキはぱあっとはじけるような笑顔を浮かべた。

 そして、そのまま僕を押したおすように勢いよく抱き付いた。うれしそうに笑みを浮かべてぎゅっと抱き付くアキの姿に、僕はまあいかと彼女を抱き締め返した。

「では、いただきます……」

「ちょっ⁉」

 こうして、僕はなし崩し的にアキに食われた。

 うん、まあ良いか……?良いのか?

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