閑話、サトリの一族

「ふむ、かえったか……。どうだった?お前の友達の勇姿ゆうしは?」

 薄暗うすぐらい部屋。その奥には一人の男が椅子いすに座っていた。ただ椅子に座っているだけだというのに、その威圧感いあつかんはかなりのものだ。その視線など、まるで全てを射殺さんばかりに鋭く強い。

 白髪の混じった髪はオールバックにまとめられており、スーツを纏ったその身体は衣服の上からでも分かるくらいに筋肉質きんにくしつだ。

 彼こそが、人工島アメノトリフネのおさにして異能バトルロイヤルの主催者。そして支上アキの父親である支上しかみ剛三ごうぞうその人だ。

 そして、その目の前に立つのは視界しかいを確保する穴すら存在しない白い仮面を被った黒装束の人物。代行者メッセンジャーだ。

「いえ、俺には何とも言えません」

「そうか、だが何かおもう所でもあったんじゃないか?友達ともだちだろう?」

「……………………」

 剛三の言葉に、仮面の代行者はだまり込む。だが、その仮面のおくから漂ってくる気配は不思議とおだやかだった。

 代行者は静かに仮面をはずす。その仮面の奥からは、神田ユウキの親友である海老原秀の顔が現れた。そう、彼の正体は神田ユウキの友達だ。

 そして、彼の保有する異能。その正体とはかつて飛騨ひだで妖怪サトリと恐れられた者達の保有していたもの―――

「……人の心をむ異能を有していたが為に、妖怪あやかしと呼ばれ人とは認められなかったサトリの一族。そんなお前達と何の因果いんがか似て非なる異能を宿して生まれたクオリアの異能を保有する少年。非情ひじょうに気になる話ではないか」

「そう、ですね。あいつには、俺達と同じ苦悩くのうは負わせたくはない」

「ああ、だがだからこそ誰よりもお前の気持ちを理解りかいしてくれる可能性があるのではないのか?だから、お前も自らあの男に近寄ちかよったのだろう?」

「……はい」

 そう、ユウキにまず近付いたのは秀からだ。自分と似てなる異能を宿して生まれたユウキという少年。彼に対してほんの僅かな興味をいだいたのが、そもそもの始まりだったという訳だ。

 だが、今回の一件でユウキに自信のうらの顔を知られた。秀はこの一件でユウキから嫌われないか。それだけが不安要素だった。

 そんな秀に、剛三はふっと苦笑くしょうを浮かべて言った。

「まあ、そんなに気になるなら一度ゆっくりと話してみると良い。その程度の自由ならお前はゆるされているだろう?」

「そう、ですね……。ですが、一つだけ気になる事が……」

「何だ?」

「……貴方のむすめが、ユキのそばに居ました」

「……そう、か。まあ娘に関しては俺も随分と放任ほうにんしてきたからな。俺に何かを言う資格などありはしないだろうよ」

「それこそ、一度ゆっくりとはなした方が良いのでは?」

「……そう、かもな」

 その直後、秀の個人用こじんようスマートフォンからコール音が鳴りひびいた。

 スマートフォンに表示された名前を見て、秀は目を見開みひらいた。

「良い。出ろ」

「ありがとうございます」

 そう言って、秀は電話に出た。電話の相手あいては、ユウキだった。

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