第4話、襲撃者

 時刻じこくは11:40。そろそろ昼食ちゅうしょくの時間だった。

 唐突にアキが散歩にさそってきた。

「えっと、少しだけ散歩にいかないかしら?」

「散歩って、こんな時間に?それに―――」

 今日は学校をやすんでいるから不用意な外出はけた方が、とそう言おうとした僕のすぐ傍にぐいっとアキは近付ちかづいてきた。あの、やはり少しばかり距離感が近すぎやしませんかね?そう思うものの、真剣なアキの表情と視線に黙り込む。

 えっと、アキさん?

 アキは、僕に向けてしずかにするよう指を鼻先に一本立てる。どうやら何かがあったらしい。僕も素直に従う。

「———良いから。私の言う通りにして。黙って付いてきて」

「うん、かったよ」

 そうして、僕とアキは外出がいしゅつする事にした。荷物も何も持たず、本当にただ散歩するだけといった軽装けいそうでの外出だ。

 だけど、どうやらアキは何かに警戒けいかいしている様子だった。やはり何かあったのだろうと思う。恐らくだけど、異能バトルロイヤルに関係かんけいする何かか?けど、聞いた話によれば異能バトルロイヤルはよるだけの筈。

 なら、どうしてこんな昼間から?思ったが、黙ってアキに付いてゆく。

 ……やはり、どうやらアキは何かに警戒しているようだ。それに、先程から背後から熱いくらいの視線しせんを感じる。

 僕は他人ヒトの感覚をその質感にいたるまで知覚する事が出来る。それは厳密に心を読む異能ではない。けど、それにいたい事は出来るだろう。

 今、僕達の背後で視線を向けているそいつは僕達を明らかにねらっている。それもあからさまな攻撃こうげきの意思がある。

 どう考えても、偶然や勘違いでは済まないレベルでのあからさまな殺意さついだ。

 恐らく、アキはその視線に僕よりもはやく気付いていたのだろう。だからこそ、不用意な被害を出さない為に僕と一緒に家を出たのだろう。僕かアキ、どちらが狙われているのか判断出来ない以上、散歩をよそおって一緒に出るしかない。

 恐らく、今は背後で視線を向けているその誰かを人気の無い場所にまで誘導している所なのだろう。だったら、僕も黙ってアキに付いていくしかない。

 そう思い、あるいていくと。やがて僕が昨晩来た海岸部かいがんぶに着いた。

 ここには物資の輸送用コンテナがまれているだけだ。普段、特にこの時間帯は人気が全く無い。故に、今は都合つごうがいいだろう。

「もう良いでしょう?さっさと出て来なさい!それとも、ただ黙って殺意を向けているだけなのかしら?」

「……やはり、気付きづいてやがったか。死神しにがみアキ」

 出てきたのは、紅蓮に染まった短髪に深紅のの男だった。外見は筋肉質で高身長の青年で、大体十六から十七歳くらいか?

 その瞳からは、みなぎるほどの戦意と殺意にちている。

 こうして、僕達に殺意を向けてくるという事は。やはり、この青年も異能者か。

「貴方も、異能バトルロイヤルの参加者さんかしゃでしょう?今はバトルロイヤルの時間外の筈だけど、どうしてあからさまなルール違反いはんをするのかしら?」

「別に、ただ俺は場外乱闘をしてでもかなえたい願いがあるだけだ。それに、お前は俺の願いに最大の障害しょうがいになる。そう判断した」

「そう、私の名前を知っているという事は私から名乗なのる必要は無いようね。貴方の名前を聞いても良いかしら?」

赤司あかしりゅうだ。覚えておけ、お前を倒す男のだ!」

 瞬間、紅蓮の炎が燃え上がった。恐らく、瞬間温度はゆうに数百度は超えるだろうと思われる。超高温の炎が、津波つなみの如く僕達へと襲い掛かる。僕とアキはそれぞれ別の方向へと避けた。

 何時の間にか知らないけど、アキの手には日本刀がにぎられている。どうやら、その日本刀はアキの異能により構築された疑似物質ぎじぶっしつらしい。

 アキが日本刀を振るう。それだけで、炎の津波は一瞬で断ち切れ消失した。

 全てを断ち切るの概念を内包した日本刀。それこそが、アキの保有する異能の正体なのだろう。それ故に、恐らくはアキにれないものは存在しない。

 物質の硬度や質量、そして概念的なものであろうと関係かんけいなく断ち切る死の刃。それこそがアキの異能の正体しょうたいだ。

 そして、対照的に赤司劉の異能は―――

「アキ」

「……何?」

「あいつの相手は僕にまかせてくれないか?」

「っ、え⁉」

 心底驚いたように、僕を見るアキ。対照的に、劉の方は僕を面白おもしろそうに見る。

 やはり、そういう事か。異能の正体、それは異能者の心象風景に由来ゆらいする。それは端的に言えば、異能者のクオリアだ。

 幼少期、僕にはこの世界が万華鏡まんげきょうのような様々な色彩しきさいの折り重なった綺麗な景色に見えていた。それは、とても綺麗な景色けしきだったけど。同時にそれは人という種の在りようを現わしてもいたんだと思う。

 要するに、物事の見え方や感じ方の問題だ。全ては人のクオリア次第で様々に変化する極彩色ごくさいしきの世界なんだ。

 だから―――

「この下らない戦争をわらせるんだろう?だったら、此処は馬鹿正直にルールに乗るよりも僕に任せて滅茶苦茶めちゃくちゃにしてやろう」

「……本当に、良いの?大丈夫だいじょうぶ?」

「ああ、任せて欲しい」

 そう言って、僕は劉と向き合った。劉は自身の周囲に炎をたぎらせ、心底面白そうな目で僕を見ている。

 どうやらやる気は十分らしい。

「……話はわったか?」

「ああ、はじめようか」

 そうして、僕のたたかいはこうして幕をひらいた。

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