第3話、クオリアの眼

 アキが泣きむのにかなり時間がかった。既に時間は朝の10:30を回り、遅刻は既に確定している。いっその事、今日はやすもうか。

 そう思い、学校に連絡れんらくを入れて学校を休んだ。無遅刻無欠席のレコードもこれで停止かな?そう、少しだけ残念ざんねんに思う。うん、でもやっぱり少しだけ名残惜しい気もするのは気のせいではないだろう。

 少しだけ心配する先生を何とか説得せっとくして、僕は電話をる。

 さて、学校に連絡も入れたし。改めてアキに向き直る。

「で、だ。支上アキだったよね?えっと……」

「アキ。アキとんで?私もユウキって呼ぶから」

「えっと……?」

 戸惑とまどっていると、アキはそっと僕の目と鼻のさきまでぐっと近づいてきて……

 え?ええ⁉

「アキ。呼んでくれないの?ユウキ」

「ア、アキ……?」

「うん!よろしく、ユウキ」

 にぱっと、花がひらくような可憐かれんさでアキは笑った。思わず僕は苦笑をする。

 今思ったんだけど。この少しばかり距離感がちかすぎやしませんかね?そう思ったけどまあとりあえずだまっておく。アキの顔がすぐ近くまで来たのにドキッとしてしまったのも秘密だ。絶対にバレてはいけないのだ。

「えっと、ところでユウキ?今更だけど、ユウキの異能いのうって何なの?私の動きとかを先読みしているようだったけど。貴方の異能の正体しょうたいがよく分からないのよね」

「えっと、そもそも異能って?」

「……………………」

「……えっと、アキ?」

 僕の言葉に、アキは思わず絶句ぜっくしているようだった。うん、そりゃそうだ。

 しばらく絶句していたアキだったけど。やがてアキは僕を真っ直ぐ見ながら真剣な表情で言った。

「……一応言っておくけど。本気ほんきなのよね?」

「うん、まあそうだね?」

「…………はぁ、とりあえず説明せつめいするけど。ユウキ、貴方にも私と同様一般の人達とは異なる特異とくいな能力がある筈よ?」

「特異な能力……?ああ、僕の特異体質とくいたいしつか」

「多分、それ。それは一体何?」

 僕はしばらくなやんだ。両親からすらこわがられ、ずっとこの特異体質のお陰で孤独な人生を送る羽目はめになった。そんな僕の特異体質を、果たしてアキに教えても良いものだろうか?

 ……けど、アキは僕の目を真っ直ぐ見て決してがしてはくれそうもない。きっと僕がはぐらかしてもゆるしてはくれないだろう。

 ……なら、まあ仕方しかたがないか。そう思い、僕は話し始めた。

「僕の特異体質。それは、他者ヒトの見る世界セカイを感じる事が出来る事だよ」

他者ヒトの見る世界を感じる?」

「えっと、人によって世界の見え方や感じ方ってちがうよね?どう物事を見ているのかとか、或いはどう感じているのか、それをさっするというレベルを超えてダイレクトに感じる事が出来るんだよ」

「……………………」

 アキは、少なからずおどろいているようだった。やはり、アキにもびっくりされてしまったようだ。

 けど、少なくとも僕の両親よりは反応はんのうはマシに見える。ああ、アキに怖がられなくて本当にかった。そう、心から思う。

 ……あれ?どうして僕はアキに怖がられるのをおそれているんだろうか?別に、アキに怖がられた所で僕自身は何ともない筈だ。何とも……

 本当に?あれ?

「……ん?んん?」

「……えっと、一人何かをなやんでいる所悪いんだけど。一つだけいても良い?」

「え?あ、うん」

 真っ直ぐ見詰みつめてくるアキの顔に、僕の意識いしきは引き戻された。

 アキの真剣な表情に、思わずドキッとしてしまったのはやはり秘密だ。

貴方ユウキのその異能、特異体質だっけ?」

「うん」

「それは生まれつきユウキに宿っていた才能いのうなのよね?」

「……うん。すくなくとも、ある日突然感じるようになった訳じゃない」

 そう、とアキは考え込むようにうなずいた。

 やはり、アキは僕の特異体質について本気でかんがえてくれているようだ。少なくとも僕の特異体質をこわがってはいないらしい。

 それが、少しだけうれしくて。嬉しくて……

「…………って、ユウキ?どうしていているの?」

「え?あ、あれ?泣いて、いる……?何で?」

「知らないわよ。ああ、もう……」

 仕方ないわね。そう、アキは言って僕をき締めてくれた。

 さっきから涙が止まらない僕を、アキはやさしく抱き締めて。頭をでてくれる。

 それが嬉しくて、余計に涙がまらない。ああ、そうか。だから僕は……

「僕は、嬉しかったんだ。僕の特異体質を怖がらないで、ありのままにけ入れてくれる人が居るという事実が。僕の特異体質を本気でかんがえてくれる人が、僕はとても嬉しかったんだ」

「……そう、ユウキも孤独こどくだったのね」

「アキも?」

「ええ、異能者は少なからず異能いのうを持っているせいで他人とはちがう自分に孤独を感じるものなのよ。貴方もそうでしょう?」

「うん、ずっとさみしかった。自分だけが他人の見ている世界けしきが見えているのに、自分の事は誰も理解してくれない。それがととても寂しかった。つらかった」

「うん、少しづつだけど。私もユウキの事を理解りかいしてあげるから。ユウキが私を理解してくれたように。私も貴方を理解してあげるから……」

 ああ、そうか。僕はようやく納得なっとくした。

 そうだ、僕はそんなアキの事が大好だいすきなんだ。なんて、ちょろい奴だ。

 そう、僕は自嘲じちょうの笑みを浮かべたけど。今はそれすらうれしかった。

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