第2話、チュートリアル的な?

「う、んん…………?」

 目をますと、僕はアパートにある自室でていた。何で、僕は布団も敷かずに寝ていたんだったっけ?思い出せないが、まあ別にいだろう。

 少しばかりこわい思いをしたような気がするけど。思い出せないなら良いや。きっと怖い夢でも見ていたんだろう。そんな夢なんて、さっさとわすれてしまおう。

 そう思い、朝食ちょうしょくを作る為にキッチンに出ようとした。その時……

「あら、起きたかしら?ちょうど朝食が出来た所だからべたらどう?」

「っ⁉っっ‼」

 おどろきのあまり、一瞬声が出なかった。少しばかりび跳ねて驚いたくらいだ。

 いや、それよりもだ。どうしてこんな所に彼女がるんだ?いや、それよりもどうして僕の部屋の場所を知っている?からない事だらけで、訳の分からない恐怖心が湧き上がってくる。正直に言おう、怖い。

 だが、そんな僕の事などおかまいなしに少女はゆっくりと僕へと近付いてくる。そんな彼女に合わせて、僕は背後へと後退こうたいしてゆく。

 思い出すのは、夜の町で出会った時の彼女。その手に日本刀を持って薄くわらう少女の姿だった。

 だが、ついに壁にを付いてしまった。どうしよう、げ場がない。

其処そこまで怖がらなくても良いと思うけど。まあいか、とりあえず、話を聞いてはくれない?」

「ど、どうしてあんな事を?何で僕を殺そうとしたんだ?」

「その話もまとめてするから。少しだけ話をいてはくれない?」

「……………………」

 僕は、黙って少女にうなずいた。少女は満足そうに頷き、そして話し始めた。

「まず、名乗なのらせてもらうけど。私の名前はアキ。支上しかみアキよ。よろしくね?」

「……僕の名前はユウキ。神田かんだユウキだ」

「そう、よろしく。じゃあまず最初にいておくけど。今、この人工島アメノトリフネ全域で夜にのみ行われている異能いのうバトルロイヤルって知ってる?」

「……いや、全くらない」

 そう、とアキは静かに頷いた。どうやら其処は驚くにあたいしないらしい。さっきから思っていたけど、アキの言う異能バトルロイヤルって一体何だ?僕の知らない所でこの島で一体何がきているんだ?

 少し、困惑こんわくする僕にアキは僅かに真剣な眼差まなざしで見詰める。僕も、思わず居住まいを正して見詰め返す。

 そして、アキの説明は続く。異能バトルロイヤルにかんする話を……

「異能バトルロイヤル。それは文字通り異能力者のみで行われるバトルロイヤル形式の戦いの事よ」

「形式に乗っ取って戦うっていう事はその戦いに勝ち残る意味いみがあるのか?それからどうして僕達は戦う必要があるんだ?」

「異能バトルロイヤルを開催かいさいした理由に関してはまだ不明ふめいな点が多いから分からないけど戦いに勝ち残る意味はあるわ。それがアメノトリフネの全権ぜんけんよ」

「アメノトリフネの、全権……?」

 僕の言葉に、アキは頷いた。

 アメノトリフネの全権。それは文字通りにけ取れば人工島アメノトリフネにおける全ての権限を意味しているだろう。では、その権限をけてまで戦う意味とは一体何だろうか?全ての権限とは一体?

 僕は、一体何に巻き込まれているんだ?そんな事が、頭の中をずっとぐるぐると回り続けていた。

「アメノトリフネ。この人工島が実際は途方もなく巨大な船であるといううわさくらいは貴方も聞いた事があるでしょう?」

「……あ、ああ」

「それは半分正解で、もう半分は不正解。実際じっさいの所、この人工島アメノトリフネは巨大な宇宙戦艦。いえ、次元じげんの海を渡る為に建造された超次元航行艦よ」

「う、宇宙戦艦だって⁉」

 また、とんでもない単語が出てきたものだ。一見すれば、うそのように聞こえるような荒唐無稽な話に聞こえる。けど、僕の特異体質いのうりょくがそれは決して嘘ではないと告げているのが分かる。

 アキは先程から、ずっと嘘を言っていない。つまり、少なくともアキ自身はずっと本音を話しているという事だ。

 それどころか、アキは何処かこの異能バトルロイヤルに対して本気ほんきで取り組んでいるような気さえする。それは、何か?

「ええ、このアメノトリフネの全権を手にすれば広大こうだいな並行世界や異世界を渡る事のできるこの巨大船を手中におさめる事が出来る。だから、異能者達はこぞってこのバトルロイヤルにち残ろうとする」

「そんな事が……。でも、並行世界や異世界に渡るだけのふねを手に入れる為に命を賭けるなんて割に合わなくないか?もっとほかに、異能者達が命を賭けて戦う程の何かがあるんじゃ?」

「もちろん、あるわ。まだ不明ふめいな点がおおいけど、このバトルロイヤルに勝てば何でも願いが叶う権利が手に入ると主催者しゅさいしゃが言っていたわ」

「願いが叶う、だって?」

「ええ、それがどういう理屈りくつなのか。或いはこのバトルロイヤルに勝利した後でまだ何かあるのかは知らないけど。恐らくは他者の命をうばっても叶えたい願いが異能者達にはあるんでしょうね」

 それは、なんとも胡散臭うさんくさい話だ。だが、少なくともアキにはそのバトルロイヤルに参加するだけの理由りゆうがあるのだろう。

 何か、叶えたいねがいがあるのか?

「アキも、何か叶えたい願いがあるのか?バトルロイヤルに参加さんかしてまでどうしても叶えたい願いが……」

「いえ、それは違うわ。私は、ただこのバトルロイヤルを滅茶苦茶にこわしたい。ただそれだけの事なのよ」

「バトルロイヤルを、壊したい?」

 そう言うと、アキは端的に頷いた。

 アキにもアキなりに何かふかい理由があるのだろう。そのは何か、途方もなく巨大な何かに挑むような力強ちからづよさを感じた。

 彼女は一体何に挑むつもりなのだろうか?それは分からないけど、恐らくはそれなりの理由は持っているらしい。

 あるいは……いや、もしくは……

「私は、この異能バトルロイヤルを滅茶苦茶めちゃくちゃに壊したい。この異能者によるふざけた戦争を早くわらせたいと思っているのよ」

「それは、どうして?」

「私の父親。このアメノトリフネの全てを管理かんりする長、支上しかみ剛三ごうぞうを止める為よ」

「ち、父親がこのアメノトリフネの長だって⁉」

 思わず、心底驚いた声を上げる。その声に、アキは少しだけかなしそうに。或いは寂しそうに顔をうつむけた。

「ええ、彼はつまを。支上フユを失ってから変わってしまったわ。私の知らない所で何かに対する復讐心ふくしゅうしんに燃えるおにになってしまったの」

「復讐の、鬼……?」

「私は!私は父を、お父さんの復讐を滅茶苦茶に壊して解放かいほうしてあげたい!復讐の鬼になっているお父さんをめたい!」

 それは、アキの心の底からの願いだった。何処までも純粋な。虚飾きょしょく装飾そうしょくのない純然な祈りだ。

 そんな願いを聞いて、僕は……

「…………分かった」

「ユウ、キ……?」

「僕も、君の手伝てつだいをするよ。一緒いっしょにこの異能バトルロイヤルを止めよう」

「っ⁉」

「どうか、僕にも君の手伝いをさせてしい」

 真っ直ぐ、アキの目を見ながら僕は彼女に手を差し伸べた。そんな僕に、アキは呆然とした目でじっと見ている。

 だが、やがてその目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちて……

 え?涙……?

「……っ」

「え、ちょっ!ごめ、何か気にさわったか?」

「いえ、私の手伝いをしてくれるって……私と一緒にお父さんを止めてくれるって言ってくれたのが、うれしくて…………」

「……っ⁉」

 気付けば、アキは僕の胸元むなもとに飛びついて大泣おおなきしていた。女性を泣かせてしまった事に僕は大慌おおあわてしてしまう。けど、どうする事も出来ず。僕はそのままアキの頭に手を添えて撫でてやる事しか出来なかった。

 うん、今の僕はかなりなさけないと思う。でも、それでも僕は何とか平静を取り繕ってアキの頭を撫で続ける。

 そんな僕に、アキはぎゅっと強く抱き付いてき続ける。

 ……うん、よくよく考えなくても此処ってアパートだよな?それに、防音設備なんてろくにされていない。

 後で、隣の人にい詰められないか心配だな……

 そんな事を、こっそりとかんがえていた。

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