恋が落ちる

やすなり

第1話


 風と一緒になって空を飛ぶ……そんな幻想虚しく俺の体は重力に従順だった。

 風は俺を斬りつけるように鋭く、降下する体が下から風に突き上げられて重い。

 音なんて風の声しか聞こえない。


 多分死ぬ。だがそれは俺が望んだ死である。

 何もない人生だった。

 走馬灯が脳内を走りまわっていたが、何にも無さすぎてすぐに何処かへ行ってしまった。

 俺は漠然と死にたかった。

 この世にいてもすることなんてないし、仕事は辛いし、そのくせ収入は低いし。

 そう思って会社の屋上から飛び降りた。

 24歳童貞、俺がこの世に産まれて残した功績なぞない。残せるとしたら、最後に全身を使った血のアートくらいだ。

 おお、神よ。なぜ私をこの世に産まれ落としたのでしょう。

 そんなことを言っている間にも地面がだんだん近くなる。

 そういえば先ほどから音がない。鼓膜が破れたのだろうか。

 ふと、右を見る。


 「あ」

 女性だった。

 一目惚れだった。

 

 「ああ、キレイだ」

 最後にいいものがみれてほん

 

 

 

 

 

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恋が落ちる やすなり @sannkakujyougi

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