4食 末期の胃がん(カレーにでもしたら?)
ここは現代のアメリカ。二人の兄弟は移住してアメリカ国籍を獲得しました。州にもよりますが、ゲイ・カップルは里親[ 同性婚に関する州等の規定(連邦、ワシントンDC、コネチカット州、アイオワ州、マサチューセッツ州、ニューハンプシャー州、ニューヨーク州およびバーモント州(2011 年現在))は、明確に「同性婚をしてはならない」と記載するのではなく、ほとんどの場合、婚姻の定義において、「婚姻を異性間の制度とする」と規定するか、有効な婚姻の要件を異性間の婚姻に限定するなどの方法を採っている。2021年、米連邦最高裁は東部ペンシルベニア州フィラデルフィア市が、同性カップルを里親として認めないカトリック系福祉団体を市の里親あっせん制度から排除したことは「違憲だ」と判断した。市側は同性カップルを里親として認めないことが差別に当たると主張していたが、最高裁は「カトリック系団体に同性カップルを里親として認めるか、活動を縮小するかを強いることは、信教の自由の侵害だ」と指摘した。]にもなれます。兄弟はプエルトリカンの少年をもらい受け、それはそれは目に入れても痛くないほど可愛がりました。少年が「ピアノ習いたい」と言えばピアノを習わせ、「サッカーやりたい」と言えば地域のサッカーチームに所属させました。「弁護士になりたい」と言えばハーバード大学に入学させ、少年は大学時代にさまざまなバイト経験を積み重ね、結局兄弟の召使いになります。はたして、これは人種差別でしょうか?[ はっきり言って差別です。現在ではポジショナリティ(立場性:positionality)と呼び、帰属集団のあいだに権力関係が存在し、その権力関係が個人の関係性においても権力作用を及ぼすような社会的局面の機序を分析する概念。また、人種、性別、階級、性的指向、性自認など複数の個人のアイデンティティが組み合わさることによって起こるさまざまな差別の現状に目を向け、マイノリティのなかでもさらに焦点の当たりづらい差別を受けている当事者を可視化するための概念をインターセクショナリティ(intersectionality)と呼ぶ。]
そんなのはどうでもいいんです。さっそく本題に入りましょう。
あるとき、ニューヨーク五番街の診療所に、一人の中年男性がきました。まず少年が応対に出ます。
「僕、末期の胃がんで、全摘してもらいたいのですが…」
「少々お待ちください。いま院長に通しますので」
ミュージカル観劇が大好きな兄弟は、本日ソワレのオフオフブロードウェイ[ 1960年代、商業主義的なフロードウェー演劇、それに追随するオフ・ブロードウェー演劇に対抗して、実験的な演劇革新を実践したアメリカの演劇運動の総称。カフェ・チノといったカフェやラ・ママ実験劇場に代表される定員 100名以下の小劇場、さらにロフトなどの空間を利用した劇場など、既成の劇場(プロセニアム:proscenium舞台を額縁のように切り取る構造物)以外の場所での上演を特徴とする。この運動のなかから、オープン・シアターやパフォーマンス・グループなど、身体性を重視した演技で世界の演劇に大きな影響を与えた劇団や、斬新な手法でアメリカの現実をえぐった S・シェパードらの劇作家が登場した。 70年代後半以降、運動としての勢いは衰えている。]を楽しみにしていました。無名の推しダンサーに目をつけて、関連グッズを買いまくり、映画でメジャーデビューしたら、「自分たちが育てた」と得意げになるアレです。日本でもいますよね?
「僕、末期の胃がんで、全摘してもらいたいんです…」
「胃を全摘? そんなの、どこでもやってるから、他の病院でやったらどうですか? わたしの治療費はべらぼうに高いですよ? ほとんどぼったくってます(オフオフに間に合わせるよう患者さんを追い立てています)」
「先生のテクニックを体感したいんです! お願いします、どうか全摘手術を!」
「そんなに言うならしかたがない。カニバリズム[ カニバリズム(cannibalism)とは、人間が人間の肉を食べる行動、あるいは習慣をいう。食人、食人俗、人肉嗜食ともいう。 文化人類学における「食人俗」は社会的・制度的に認められた慣習や風習を指す。一時的な飢餓による緊急避難的な食人や精神異常による食人はカニバリズムには含まず、アントロポファジー(anthropophagy、「人間」を意味する「anthropo-」と、「食べる」を意味する「-phagy」の合成語)に分類される。また、生物学では種内捕食(いわゆる「共食い」)全般を指す。 ]は平気ですか?」
「…というと?」
「全摘した臓物を患者さん本人が食べるんです」
「あっ」
患者はみなまで言わなくとも察し、諦めたのでした。本当に理解しているか怪しくてつい解説をしちゃうけど、そこは読者諸氏を信用してあえてつけませんでした。マジでわかんないなら課金しますよ?
「さあさあ、今夜の推しは、えくぼが可愛い二二歳のデヴィッド・ガーナー! 早く観たいわ!」
「上腕二頭筋と大胸筋が素敵なデヴィ―! 撫で撫でしたーい! もう抱かれてもいいっ! 愛してるっ!!」
二人はたっぷりバターがかかったビターキャラメルハニーポップコーンをほおばりながら、いつものかぶりつきでデヴィッドをしげしげと、穴が空くまで視姦したのでした。おそろしやおそろしや。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます