きょくしんまつり⑤~血薔薇~
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李 宋文、54歳。
かつて彼は中国政府が提唱する人民総覚醒計画『大覚』のモデルケースとして選ばれた事がある。
人民総覚醒計画『大覚』とは、ダンジョンに生息するモンスターや存在する物質を遺伝子操作を中心とした施術によって人体に取り込み、より強く、そして早くダンジョンの干渉を受けられる様にする事である。
本来覚醒者…日本でいう探索者が既存の人類種を超越したと思われるほどの"進化"を遂げるには、数多くの死線を掻い潜る必要がある。ただ死線を掻い潜るだけではなく、強く純粋な意志を持っていなくては駄目だ。
『大覚』はその過程を短縮する事を目的として計画された。ダンジョンが形成される際、そこに取り込まれた生物や物質が、モンスターという強力な存在に変容してしまう点に着目して立案されたのだ。
肝心なのは取り込まれる際の瞬間的な変容である。ひとたびダンジョンとして形をかためてからはその瞬間的な変容の力は失われてしまう。代わりに、まるで放射能の様にじわじわと生物の心身に干渉し、その存在を作り変えていく様になる。
だがもしもこの"瞬間的変容"を人為的に齎す事が出来るとすれば?その変容の度合も調整できるとすれば?
来るべき次代において、中国の覚醒者戦力は他国を圧倒できるのではないか。
それが『大覚』の全容である。
『大覚』の協力者には、国から多額の報奨金が出る。李は老いた両親がおり、彼らに十分な生活をさせるために『大覚』のモデルケースとして政府の研究に協力する事を決め、研究所へと赴いた。
実験に次ぐ実験、そして研究棟の奥へと消え、帰ってこない仲間達。
李は覚醒者として最低限の適応を見せたが、研究員が言うには更に"深度"を深めていく必要があるらしい。
この時すでに李は自身の心身の異常に気付いていた。自分が何か違うモノへと変容しつつあることを認めていた。ある日、仲間の一人が実験棟の奥へと連れられて行くのを李は尾行した。彼は武術の達人である。気配を誤魔化す事くらいは容易い。
──而して、李が研究所で見た光景は
その後紆余曲折ありながらも両親を連れて日本へ逃げた李を、日本が匿ったという次第である。
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『黑 百蓮…貴女程の達人も党の走狗と化していたか。しかし狡兎死して走狗烹らる…このままあの国に従っていてもいずれは身を滅ぼすだけだ。貴女の師がこれを知れば何を思うか』
李は黑 百蓮に言い、歩み来る百蓮の前に立ちふさがった。この恐るべき達人を相手に出来るのは自分だけだと李は思っていた。
李の言葉に百蓮は薄く嗤う。
『…今、あの国がどうなっているのか知っているのでしょうか。誰も彼もが鎖で繋がれているのです。そして、師はもういません。私が殺しました』
なぜ、と李は聞かない。
両の脚を大きく広げ、腰を落とし、半身に構えた。これは彼の修める"貫指拳"に於いては積極攻勢の構えである。
"貫指拳"では身体を巡る力は末端に集まるという理念から、両手両足の指を鍛え上げるのだ。
右手は拳形に前へ、左手は五指を伸ばし後方へ引き絞る。
──貫指強弓
『そこをどきなさい、"神槍李"。今だけは見逃してあげます。深度1の覚醒者である貴方には深度3の私には勝てません』
その如何にも上からの台詞に、李の両眼が危険な光を帯びた。
『看招ッ!!』
(我が業を見ろ!!)
李がグンと腰を落とし、地面の反動を足裏へ溜める。そして後方へ下げた左脚を使って第一の加速を得る。
その加速が消えない内に右脚で地面を蹴りだし、まさに投槍の様な勢いで
SS109,AK47弾はもちろん7.62徹甲弾も止められるレベルⅣの防弾プレートをもぶち抜く貫手であった。直撃すれば人体など千切れ飛ぶだろう。
しかし黑 百蓮はぬるりと両の手をポケットから引き抜き、呟いた。
──
不穏の香気が李の鼻を擽った。
瞬間、李は乱れ飛ぶ薔薇の花弁を幻視する。
花弁の朱は薔薇の赤か、それとも。
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一方、歳三。
「ええ、そうなんです。車は…あァ、あれはもうだめだ…燃えている。消防車を呼んだ方がいいんでしょうか。それと知らない奴らが俺たちを取り囲んでいて、俺ァもうどうしたらいいかわからなくなっちまって…。大切な大会だってのによォ、今日中に京都につけるかどうか…俺一人なら走ればすぐつくとおもうんですが…えと、ここは静岡だから…京都までだったら3分くらいかな…。ハジキの法則ってのを昔教えてもらった事があって、え?いやいやそれは無理ってモンですぜ。抱えるのはともかく、それで走ったら皆の首がモゲちまいます。だから車を手配してくれねぇかなと。…はい、ああ、そうですね…ええと、変な人らですよ。急に撃ってきたんです。え?銃ですよ、とんでもねぇ話だ、通話中に…あ!李さんが!…こりゃあ大変だぁ…。す、すまねぇ金城さんよう、ちょっと見てきます。李さんが大変そうで、警察を…救急車?」
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