日常15(歳三)
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この日、歳三は早起きをし、家を一歩も出ずにStermと睨めっこをしていた。
これまでの記憶を掘り返し、時にはデータバンクへアクセスし、適切なダンジョンを探している。歳三は明日、もしくは明後日には品川へ出向き、 "鉄騎" と "鉄衛" を迎えに行こうと考えており、その為に自分なりに出来る事をしようと頑張っているのだ。
──万がイチって事もあるからな
2Bの鉛筆の先をぺろりと舐め、大学ノートにメモ書きを残していく。端末のメモ機能を使えばいいのかもしれないが、歳三はそれではメモした気にならないと言う。
ただそれは兎も角として、これはデバイスなりパソコンなりで調べ物をした事がある者が多く経験する事ではあるが、歳三は "寄り道" をしてしまうのである。
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Stermからは月刊ダンジョンという探索者協会が出している雑誌のバックナンバーが閲覧できるのだが、結局歳三は折角午前に起床したというのに昼過ぎまで記事を読み耽ってしまった。
とはいえ、午後からまた真面目に調べ物をすればいいだけの話なのだが、根が未練たらたら体質に出来ている所の歳三は、一度決めた事…つまり、次回挑むダンジョンの吟味から寄り道をしてしまった事を1、2時間程使って悩み倒すのである。
──くそ!集中力が続かねぇ!だが月刊ダンジョンが面白いから仕方ねェんだ。いや、仕方なくなんかない、言い訳をするな歳三。お前はそんなんだから駄目なんだ、真面目にやれ
決意を新たにした歳三だが、『一般人から探索者へ、そして一般人へ。探索者を引退後の人生指針』という記事を見つけてしまう。するとグワワと何か心を揺さぶられた様な気がした歳三は、どっしりと胡坐をかいて再び記事を読み耽るのであった。
──なるほどな、協会に拾い上げて貰うって手もあるのか。最終学歴が中卒じゃあよ、中々難しいかもしれないが…。だが現役でも他の仕事をもってる人もいるみたいだ。さっきの記事のよ、橘・フローレンス・涼子さんってヒトはデザイナーとして活躍しているみたいだしな
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月刊ダンジョンは多分にエンタメに寄った雑誌だが、これは意図的にそのように作られている。探索者という職業の過酷さ、凄惨さをマスキングする事、それが月刊ダンジョンに与えられた役割だ。その他にも "依頼" を多く成功させる事で等級を上げていくゲーム染みたシステムなどは、ダンジョンという異界への恐怖を薄れさせる為に他ならない。
これは探索者界隈内外への対策だ。
外への対策というのは勿論、探索者の新規流入を促進する為だ。
月刊ダンジョンは別にStermでしか閲覧できないわけではなく、一般人も紙媒体で購入する事ができる。ただし値段は1500円と高いが。ちなみに週刊誌と月刊誌という違いはあるが、週刊少年ニャンプという猫のロゴで有名な少年史の値段は340円となっている。
そして内への対策とは、これはもうひとえにダンジョンへの恐怖心を薄れさせる為である。協会はダンジョンについて面白おかしく書き立て、ダンジョンの異常性を誤魔化そうとしている。
ダンジョンを恐怖してはならないからだ。
確かに恐ろしい場所ではある。しかし、恐れてはならない。
その理由を知る者は協会上層部と一部の上級探索者のみである。
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「色々と考えてみたが、やはりここか」
歳三の視線は、Stermに表示された都内のとあるダンジョンに注がれていた。
──東京都新宿区は歌舞伎町2丁目、乙級指定 "歌舞伎町マンションダンジョン"
このダンジョンは人型モンスターが数多く現れる事で有名なダンジョンだ。このダンジョンの人型モンスターは極めて凶暴であり、異形型と比べて特別に平易であるわけではないのだが、歳三がそこを選んだのは相応の理由がある。
──どうもよ、俺は浮いてたりデカすぎたり、逆にこますぎたりって相手とは相性がよくねぇんだよな。それにてっこやてっぺーにしても同じ事だ
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