第13話 弁明
精神を鍛えたアルフィーは街へと繰り出す。正確には神殿に向かっていた。
勇ましい顔つきで神殿の目の前に来た。一度深呼吸をする。建物の階段へ一歩を踏み出すと、美しい噴水が目に入ったので近くで見る事にする。暫くそれを細かく観察していた。
「水の精霊がいるのだろうか? お、虹……不思議だ」
「なにが不思議なの?」
背後から声をかけられた。
「ぅわっティシア!? これはその!」
「そんなに慌ててどうしたの?」
「な……な、何か聞いてる? 誰かから。何か。ほら」
「何かって? えー? なんだろー」
「あ、聞いてないなら」
「ディアナとお風呂に入ってたとかは、クライヴに聞いたけどー」
「!?」
アルフィーは固まった。ゴクリを唾を飲み込む。彼女は笑顔でジッとこちらを見ていた。
「違うんだ。あれはディアナが転んで……腰を痛めたから治療を……ッ」
「……んー」
「ちゃ! ちゃんと布を被せてなるべく見ない様にっ」
「だよねー変だと思った。クライヴの言う事だからちょっとね」
「し、信じてくれるのか!?」
「うん。それで他の人も誤解も解いて回ってるってところ?」
「そ、そうなんだよ……まったくクライヴのやつ……」
「他には何処に言ったの?」
「弁明に来たのはここが初だけど? ここから街中を回らないと……」
「そっか、そっか」
「?」
レティシアは何故か上機嫌になっていた。神殿の階段に足を駆ける。
「じゃあ気を付けてね、アルフィー」
「あ、嗚呼…行って来る」
アルフィーが次の弁明先を探す。しかし、こんな時に限って誰にも会えず、見晴らしの良い丘の上にある憩いの場の柵で一息付く。
「わー!」
声と同時に、急に肩を両手でがっしりと持たれ、激しく体を揺らされた。驚いて後ろを見るとエルナだった。
「……驚いた。ところで何を?」
「甘いねー。私が暗殺者だったら死んでたよ」
(何がしたいんだ? いやでも丁度良かった)
「あのでぇ……あのな。ディアナ嬢から何か聞いてないか?」
「さあ? クライヴからなら聞いたけど」
(またあいつか!)
僅かに憤りを見せ、彼女は続ける。
「ディ、ディアナにナニか入れてたんだってぇっ?」
「聞いてくれ! 実は、転んで動けなくなったディアナ嬢を治療してただけなんだ!」
エルナは肩を持つと、そのまま力を込めて落とそうとした。エビぞりになるアルフィーに怒りをぶつける。
「さ、最低っ……弱ってるお姉ちゃんに!」
「イテテテテ、待って! 腰を痛めたから動ける様に癒しの魔法をかけたんだって!」
「え……? 怪我したってこと?」
「そう! ディアナに聞いて見ろって!」
「本当にぃ?」
「バレる嘘吐いてどうするんだ……そっちの方が怖い」
「そ、そういう事なら!」
力を緩めたので体勢を戻す。危うく落ちるところだったと、ホッと胸をなでおろす。
「まったく。何だと思ったんだよ……治療だって言ったろ」
すると顔を真っ赤に染めながら、また両手に力を込める。
「そ、それはッ。忘れなさいよ!?」
「分かった! 分かったから! 離して」
暫くして落ち着いたエルナは聞く。
「じゃあ、ディアナとは何も無かったのね?」
「だからそうだって。何回説明すればいいんだよ」
「ふ、ふ~ん。まっ、まあどうでも良いんだけどね」
「あ、そうだ。エルナからも街の皆に誤解だって伝えてくれないか。クライヴがかなり言って回ったみたいで困ってたんだよ。きっと姫様の言葉なら簡単に納得してくれる」
「……私を便利屋かなんかと勘違いしてない?」
「でも、お互い困るだろ?」
「た、確かに私もいい気はしないわね。将来の計画もあるし……」
「私もって? ディアナ嬢と俺が、無い事を言われて困るって話だけど」
「いやぁ! だ、だからっ。私の姉がっ、こんな奴と噂になるから困るって意味で! 別にあんたの事なんてどうとも思ってないわよ!」
「だろうな、まあそのへんは特にどうでもいいか。そういう訳だからよろしく頼む。もちろん俺もこれから弁明に向かうから。それじゃあな」
「……カ……」
去り行くアルフィーを背に、エルナが一人呟いた言葉が、静寂に溶けていった。
街を歩いていると、ディアナを発見した。目が合うなり、凄い速度で近づき路地裏へと連れていかれた。
「どどどどういう事だッ。どうやら私とアルフィー殿は婚約しているらしい!」
「落ち着いてください……それはただの噂です。今、その誤解を解く旅をしてます」
彼女は顔を反らして、ボソっと早口で訊ねた。
「い、嫌なのか?」
「そうなると、お互い最前線で戦うのが難しくなりますよ……エルナ殿下をお守りする後継者も見つけなければ」
彼女は胸をなでおろすと憑き物が落ちた顔となった。
「なるほど……それでは……」
「はい!」
「今から心が震える様な勝負をしよう」
「違います」
「何故……」
「ここは二手に別れて噂の終息させましょう」
「アルフィー殿……もしかして私と勝負がお嫌いか? その、会うたびに、気まずそうで……逃げられている様な気がするのだが……」
(彼女との戦いでは学べる事が多くある。それに勝つためにお互いの工夫がみられて楽しい。ただ、適度にしてくれないと体がいくつあっても足りない)
「いえ、好きですけど」
「すっ!!」
「でも、陛下の様に、現状の優先順位をつけれる様になりたいと……思った次第です」
ディアナは顔を赤らめ挙動不審になっていた。一人で何かと戦っていた。今のうちに押し切って、二手に別れる。
「それでは、お互い頑張りましょう」
彼が去ると、ディアナは納得した様に言う。
「お互いだと。ハッ! お父様と対等になれるように努力している。まさか私のため、か……?」
したり顔に戻った彼女は自信に満ちた声になっていた。
「共に高みに昇ろう……アルフィー殿!」
☆☆☆☆
ここまでで一章は終わりになります。お読みいただきありがとうございました。
オルビネティラの空~滅びかけた大地。人々は再び上昇する~ 刀根光太郎 @tone-koutarou89
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