第11話 怪鳥と格闘

 翌日、日の出の光を浴び、藁を敷いた床で目覚める。レティシアとついでにクーにも用事があるので中央の神殿に向かう。


「おはよう! アルフィー」


「おはよう、レティシア」



「君から来るのは珍しいね。何を企んでる?」



(一応企んでるけど、クーに言われるとなんか嫌だな)


「グリフォンをもっと仲間にしたくてな。大まかな位置が分からないかと思って」



「じゃあ」


「駄目だよレティシア。危険なことは控えてってあれほど」


「……分かった」



 レティシアに大体の位置を聞く。早速向かう事にした。


「なぁクー」


「なに?」



「他の皆はベッドらしいな」


「……へー」



「俺……未だに藁なんだけど……」


「クー!? それほんと!」



「え? あ! 嗚呼ぁ思い出した! 少し前までは容量が足りなくて、最期にアルフィーの部屋作ったら素材がね! 寝、だけに! ごめんごめん忙しくて忘れてた。すぐに作り直すよー」


「あははは、このおっちょこちょいめー。この、この!」


「あははは、イタイーイタイーよー!」


 二人とも軽くポン、ポンと軽く拳を握って交互に押し合う。



「二人とも仲良くなったんだね。良かったー。何か相性が悪そうだったからー」


「まぁねー」



「アルフィー。お水は?」


「欲しいっ。丁度喉がカラカラだったんだ。ありがとう」



 レティシアが飲み物を出そうと奥の部屋に入った。クーの頬をつねろうとスッと腕を伸ばするが、その前に弾かれた。


 一瞬、二人は動きが停止する。アルフィーが高速で腕を伸ばすと弾かれた。そして、両手を使い、頬をつねろうと連続で手を伸ばすが、全て華麗に弾かれる。


 奥からレティシアが出て来た瞬間、二人は肩を組んでリズムに乗り始めた。



「「~♪~♪」」



「本当に仲が良いね♪」




【姉妹】



 飼育場に向かう道中、エルナがキョロキョロと建物を見ていた。


「何処に住んでるのよあいつ……」



「エルナ嬢。何してるんですか?」


 アルフィーに気が付くと僅かに照れた表情で近づいて来た。



「丁度良かったわ。家何処よ?」


「……ここ全然違いますけど……もしかして迷ったんですか?」


「なッ!? そんな訳ないでしょっ! 私が迷子なんてありえないわ!」



「それなら道案内要りませんね」


「そ、それとこれは話が別! ……敬語」


 最後にボソッと言ったが、ここは正式な場ではないが。色々人が居るのでやりにくい。適当に話を変えようと思いたつ。



「昨日、陛下にお会いしましたよ。色々と助言を頂いて、感謝しきれないです」


「お、お、おおお父様に!?」


「どうかされました?」



「し、仕方ないわね! ア、アルフィーがそのつもりなら!」


 彼女の顔が真っ赤になった。陛下に何か言われたのだろうか。その時、背後から声をかけられた。


「エルナ姫! ここにでしたか!?」


「やばっ……」


 ディアナが近づいて来た。


「お勉強の時間ですよ。しっかりと学んで……」



 そこでディアナと目が合った。彼女の顔が同じく真っ赤になる。


「あああ、あ、しょ……勝ぷぅだ!?」


 酷く声が裏返っていた。



「何故そうなるのです……」


「ふ、相応しいかどうか見極めが必要だ!」


(なんの話だろう?)



 この二人に構っていたら、地上に行けなくなると感じた。そこで陛下の幻覚を見たことする。もしくは精霊陛下だ。


「あ、陛下。どうされたのですか……」



 その言葉に反応する。二人は動揺し、そちらを見る。


「こここ、これには訳が!?」


「すぐにエルナ姫を連れて……あれ?」



 背後を見ても誰もおらず、アルフィーは既に逃走していた。




【グリフォン】


 だらしない表情で寝そべったクライヴが立ち上がる。


「よう、アルフィー」


「もっとグリフォンを探しに行こうと思ってる。先を見越して、足りない物ってあるか?」


「ありまくりだ。小屋だろ、餌の量と種類。遊び場に。飼育に人員……それからー」



「分かった。急には難しいけど何とかする」


「お! 頼りにしてるぜ」



「それよりも腕、なまってないだろうな」


「誰に言ってる? 力がないと守れねぇからな」


「頼りになる」



 二人は準備をするといつの間にか彼女等が居た。


「……よくも騙してくれたな」


「……見間違いでした。すみません」



「だめー。今度埋め合わせしてもらうから」


 エルナもいた。ただ彼女を止めるべきのディアナもグリフォンに乗っていた。


「これは……?」



「エルナ姫はおっしゃった。開拓をアルフィー殿だけに任せると後々、国力の差が開いてしまう。私が護衛をすれば姫はある程度自由に動ける、と。そう、すっかり忘れていた。御守りの前に、私は誇り高き騎士である!」



(見事に言いくるめられてるな。エルナ嬢は陛下似かな……)



 クライヴが言う。


「レティシア抜け出したみたいだな。早く行かないとクーが来るぞ」


 しっかりとアルフィーの後ろに騎乗していた。彼等は地上へと向かう。



【移動する人々】



 起伏のが激しい山道。そこを長い行列が歩いていた。その先頭に立つ者は大きな荷物を抱えていた。



「も少ししたら休憩ネ。頑張るヨ」



 茶髪のお団子ヘヤ。青い瞳を持つ豊満な女性。動き易さ重視のためか服がスリットになっていて、そこからチラリと、適度に発達した太腿が顔を覗かせる。



 大移動で疲れ切った人々。その誰かが空を指さして言った。


「あぁ……空で巨大な鳥が戦っておる……」


「はー、大きい怪鳥ネ。グリフォン一杯……珍しいネ」




【上空】



 アルフィーたちが大空を飛んでいると、影が重なった。珍しい光景に疑問を漏らす。


「ん? こんな晴天に雲?」


「違うわアルフィー!? 上よ!?」



 エルナが焦った様子で叫んだ。上を見ると途轍もなく大きな鳥がグリフォンを引きつれ、大空を飛んでいた。その鳴き声は威圧を含んでおり、心地悪かった。レティシアが言う。



「縄張りに入ったみたい」


「説得出来ない?」



 レティシアは精霊経由で怪鳥と対話を試みる。


「戦いに勝ったら一緒に来ても良いって」


「ぇぇ……」



 アルフィーはとある姉妹をチラリと見た。


「何よ?」「何か言いたそうだな?」


「特には……」



「でもチャンスだぜ!」


「そうだな……あっこなら何とか戦えそうだ」


「アルフィー。降りて戦うの?」


「普通にここで戦って落とせば勝ちでしょ?」



「いや……それは駄目だ」


「おっ、アルフィー。拳か? 分かってるなッ」



「今拳って言わなかった?」


「私にもそう聞こえた気がします……」



 着陸すると、改めて大きさに理解する。


「でけぇー!」「でかっ」



 怪鳥の前ではクライヴが乗るグリフォンですらも子供の様に見える。しっかりと真正面から対峙するアルフィー。迷わず接近し、殴りに行く。怪鳥は特に反撃をせずにその攻撃を喰らう。


「よし! そのままラッシュで畳みかけてアルフィー!?」


「いや……駄目だ……」


「なんでっ!? チャンスなのよ!?」



 クライヴがそれ見て感動する。


「わざと喰らっただとぉ!? この怪鳥……出来る!?」



 効いてないアピールをする怪鳥が今度は翼を打ち付けると、アルフィーもそれを受けた。吹き飛ばされたが、すぐに立ち上がる。笑みで余裕を見せる。


「馬鹿な!? こんなご時世で! こんな戦いが見れるとは!? しかもっ異種別だぁ!?」


 この二つの生物は暫くの間、真っ向から殴り合っていた。



「……?」


 女性陣は顔を見合わせてハテナマークを浮かべていた。それを余所にクライヴのテンションが高まる。



「駄目か!? 鳥は見かけの割に軽いとは言え、あの巨体!? アルフィーの方が不利かぁぁあ」


「まだだ……ッ。見せてやる! 人族の気合と根性をなぁ!?」


 さらに激しい殴り合いが始まる。それぞれのグリフォンたちが応援を始める。


「どっちだぁ!? 一体どっちが勝つんだ!?」



 その時、黒い触手が怪鳥の足に絡みついた。そのまま持ち上がて地面に叩きつける。魔獣だ。怪鳥率いるグリフォンたちが慌てる。



「……」


 無言でぶち切れたクライヴが戦斧を持ち上げた。そしてもう片方の腕で剣を投げた。


「アルフィー!」


 彼は触手を切ると怪鳥を解放する。そして、癒しの魔法を使う。だが、特に変化はない。そこで魔獣に隙を付かれる。不気味に唸り声をあげ、触手を絡めようと素早く伸ばした。



「はぁぁああ!? ハッ!?」


 触手が接触したのと同時、恐ろしい速度で参戦者が現れた。その女性は掌底を繰り出す。魔獣は凄まじい衝撃を一点に受け、あり得ない速度で吹き飛ばされた。



「真剣勝負、横槍良くないネ!?」



「誰!? これはどうするの!?


 急な出来事の連続でエルナの思考がショートする。



「魔獣を倒す。レティシアは怪鳥を頼む」



「彼女の言う通りだッ。真剣勝負に横やり……絶対に許せん」



「それは良いけど彼女素手で魔獣に!?」


「問題ないネ。我が拳は何者にも砕けないヨ」



「……滅茶苦茶言ってる」



(……恐らくは癒しの魔法に似た何かを纏ってる。俺も魔獣に継続して触られるとやる方法。でも、あれは……彼女のはさらに攻撃に特化しているのか?)



 レティシアが怪鳥の足を治癒しに動く。木が多く邪魔なのでグリフォンだけを飛ばし、地上での戦闘になった。



 魔獣も巨大だった。球体の獣。前に会ったのは同じ球体でも液体よりだったが、こちらは毛深く柔らかそうだ。ここは精霊が多いと言っていた。それを喰らって育ってしまったのだろう。



 魔獣は自らの弾力を活かして空高く跳ぶと、そのまま落下して来た。皆が慌てて離れる中、格闘家は真ん中で力を溜めていた。



「それ悪い手ネ」



 そして、タイミングを合わせ、勢いよく脚を真上に蹴り上げる。柔軟な体から繰り出されるそれは魔獣を受け止めた。しかし、衝撃は凄まじく同時に地面にヒビが入った。



 だが、弱った魔獣は最後の抵抗を見せる。触手を伸ばして彼女を捕獲しようとする。彼女の脚は皮膚を貫いたため、瞬時に動けなかった。


「アャー……しまたネ」


 急いで抜こうと頑張る。間に合わないと冷や汗をかいていると。先ほど邪魔されたアルフィーたちが仕返しとばかりに、触手と本体を切り刻んだ。



「オオ……驚いたヨ」




 怪鳥を治療が終わり、レティシアが言う。



「いいの!? 皆、怪鳥さん。一緒に来てくれるって!」


「よっし! よろしくな!?」



「旅しているカ? 一緒に来ないカ? 一緒だと頼もしいネ」


「旅をしているというか」



「遅れたヨ。私ユイネ」


「ユイネさん、俺たちは」



「違うヨ。私ユイ、ネ」


「あー、ユイさん。俺たちは空の島に住んでて」


「ォォ……ソラノシマ。一緒いいカ?」



 ユイは後ろを指さす。長い行列がもうじきここに着こうとしていた。彼女は魔獣を察知し、先行して来ていたらしい。


 アルフィーたちは顔を見合わせる。


「俺は良いと思うぜ。魔獣に真っ先に突っ込んでくる何て中々出来ねぇ。真剣勝負に水を差すのに怒るとこも気に入った」


 クライヴは即答した。特に反対意見も出なかったので彼女を加える事にした。



 少し開けた場所を探し、島を呼ぶ。


「アャー……空島だたネ……まさかヨ……」



 驚く人々をそこから怪鳥に乗せ、往復する。怖がっていた人はグリフォンで縄を使い二人乗りで運ぶ。時間はかかったが皆無事に移動は完了した。



 こうしてまた人々と怪鳥とグリフォンが加わったのであった。

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